2003年から続く〈マルドゥック〉完結のカウントダウンが始まった

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書籍情報:版元ドットコム

2003年から続く〈マルドゥック〉完結のカウントダウンが始まった

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 本屋大賞受賞の『天地明察』が大ヒット、『光圀伝』『はなとゆめ』も含め、世間的には歴史小説家のイメージだが、作家・冲方丁のジャンピングボードは、日本SF大賞を受賞した2003年の『マルドゥック・スクランブル』全3巻。

 物語の主役は、禁断の科学技術が生み出したネズミ型の万能兵器ウフコックと、一種のサイボーグ化手術により死の淵から生還した少女バロット。手に汗握る賭博描写にSFの最先端を行くかっこよさが融合し、まったく新しいエンターテインメントが誕生した。

 06年には、その前日譚となる『マルドゥック・ヴェロシティ』(ともにハヤカワ文庫)全3巻を刊行。風太郎の忍法帖をエルロイの濃縮文体で語るような、壮絶すぎる多人数アクションで読者の度肝を抜いた。

 それから10年。著者の立場は激変し、国民的ベストセラー作家に昇りつめたかと思えば、昨年8月には、身に覚えのないDV容疑で逮捕され、9日間勾留される理不尽な事件が発生。結局、不起訴となったが、影響は甚大で、その怒りをバネに「冲方丁のこち留 こちら渋谷警察署留置場」と題する生々しい手記をこの3月まで週刊プレイボーイに連載した(全13回)。

 その間もずっとSFマガジンに書きつづけていたのが、『スクランブル』の2年後から始まるシリーズ完結編『マルドゥック・アノニマス』(現在も連載中)。雑誌発表分を大幅に改稿して、その第1巻がついに刊行された。〈スター・ウォーズ〉で言えば、待望久しかった『フォースの覚醒』みたいなもの。帯にもある通り、いよいよ本書では、主人公ウフコックの“価値ある死”へのカウントダウンが始まる。物語の軸になるのは、新旧ヤクザ同士の抗争。いわばSF版『仁義なき戦い』だが、エンハンサーと呼ばれる特殊能力者同士のバトルだけに、『アベンジャーズ』ばりの華麗なアクションが展開する。

 話は独立しているので、いきなり本書から読んでも大丈夫。冲方丁の歴史小説しか知らない人は、この機会にぜひ〈マルドゥック〉世界を体験してほしい。

新潮社 週刊新潮
2016年4月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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