『ガルブレイス アメリカ資本主義との格闘』 伊東光晴著

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ガルブレイス : アメリカ資本主義との格闘

『ガルブレイス : アメリカ資本主義との格闘』

著者
伊東 光晴 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784004315933
価格
864円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ガルブレイス アメリカ資本主義との格闘』 伊東光晴著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

経済政策への重い問い

 『ゆたかな社会』『新しい産業国家』『不確実性の時代』など、多作でベストセラーも多いアメリカの経済学者ガルブレイスは、20世紀を代表する知性の一人でもある。著者は、日本経済の現状と政府の政策に鋭い批判を放ってきた論客の経済学者。大病から生還した後、不自由な体を押して書き上げた。「歴史に残る瞬間に身を置く」ことの意味を問う冒頭の一文から気迫がみなぎる。研究と現状批判の集大成である。

 ガルブレイスは、スコットランド移民の農家に生まれ、農業大学で実学を学んだ後に、名門ハーバード大学で教鞭(きょうべん)をとった。大恐慌で世界経済が混乱する中で、初期のニュー・ディール政策におけるリベラルな思潮に強い共感を寄せた。第二次世界大戦後、成長するアメリカ経済に対して、既得権益や貧困という「アンバランス」を問題視し、巨大化する企業内では、「テクノストラクチュア」と自ら命名する経営専門家層がその行動様式を規定すると見た。豊富なデータと華麗な文章を駆使し、「通念」を批判するというスタイルは、生涯一貫していた。

 本書は、旧著『ケインズ』『シュンペーター』とともに三部作をなす。三人の理論は、戦後日本の経済学者の政治的役割に投影された。敗戦後に経済安定本部の次官待遇として経済復興政策を推進し、ケインズを咀嚼(そしゃく)・総合したサミュエルソンを紹介した都留重人。賃金二倍論を唱え、経済審議会総合政策部会長として国民所得倍増計画を政府に提案した中山伊知郎。彼らをケインズ、シュンペーターに重ねてみる。バブル経済崩壊からアベノミクスまで、政府の経済政策を指弾し続けた著者の生き様は、やはりガルブレイスだ。経済学者の群像は、資本主義の発展史であり、そのまま戦後日本の政治史でもある。三部作を読み通すと、20世紀の世界と日本が浮かび上がる。そこで著者は問いかける。何をなすべきか、と。重いメッセージである。

 ◇いとう・みつはる=1927年、東京生まれ。京都大名誉教授。著書に『経済学は現実にこたえうるか』など。

 岩波新書 800円

読売新聞
2016年4月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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