戦後の地層 東京新聞取材班 編

レビュー

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戦後の地層 東京新聞取材班 編

[レビュアー] 吉田司(ノンフィクション作家)

◆9条の空洞化を検証

 安保法制の成立で<自衛隊の戦争>が間もなく始まる、かつての軍国主義へ回帰するのでは…との不安がよぎる。なぜかくもやすやすと、日本は再び「戦争のできる国」になってしまったのか。反省をこめて戦後七十年の反戦平和(憲法九条)の空洞化の歴史を検証した本だ。

 核廃絶を訴える平和都市長崎・佐世保の戦後史を見てみよう。長崎は三菱重工が戦艦「武蔵」を造った軍都で、佐世保も軍港だったが、長崎は被爆し、佐世保も破壊された。一九五〇年に佐世保市が平和都市宣言をすると、その五ケ月後に朝鮮戦争が勃発。特需景気でドル札が舞い、米軍は基地を開設し、市は海上警備隊(後の海上自衛隊)を誘致した。平和宣言はあっという間に骨抜きにされた。だから今も平和都市長崎で自衛隊のイージス艦や護衛艦、魚雷が造られている。

 本書は「憲法で戦力の不保持を掲げながら、『自衛』という名の武力保持へと方向転換した」と書き、二枚舌の戦後日本の姿を的確に描出している。つまり立憲主義は最初から空洞化していたのだ。

 だとすれば、これから日本は「戦前」(軍国化)に戻るのか。それとも安保法制の本質は<アメリカの戦争>の下請け化なのだから「アメリカ」に戻るのか。いいや、どちらも拒否して今度こそ「空洞なき反戦平和」の世を創る道もあろう。どの道を行くのか、決断を迫る書だ。
 (現代思潮新社・1944円)

 東京新聞(中日新聞東京本社)の社会部を中心にした取材班が執筆。

◆もう1冊 

 神奈川新聞取材班編『時代の正体(2)-語ることをあきらめない』(現代思潮新社)。報道規制など時代を問う第二弾。

中日新聞 東京新聞
2016年5月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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