『永遠とは違う一日』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【聞きたい。】押切もえさん 『永遠とは違う一日』 「見えない愛情」を生き生きと
[文] 村島有紀
「見えないところで人と人は繋(つな)がっている。誰かを愛したり、思いあったり…。もし、つまらない、ついていない一日に思えても、そこに見えない愛情があれば、すごく大切な一日になると思う」
2作目の小説、初の連作短編集が、第29回山本周五郎賞にノミネートされた。女性誌の人気モデルとしてスポットライトを浴びる著者が、小説の主人公に選んだのは、新人モデルの売り出しに奔走するマネジャーや、アイドルの衣装を用意するスタイリストなど裏方の人々だ。立場も違えば年齢も違うが、主人公たちは仕事や恋愛、出産といった転機に迷い、とまどいながらも必死で前に進もうとする。全編を読み終わった後に、ほんわかと心が温まる。
全6編。そのうちの1編「抱擁とハンカチーフ」の主人公は、アイドルグループに所属する中学生の娘を持つ40代の女性画家だ。何層もの色を塗り重ねたキャンバスを前に「何を伝えたいのか」と悩み、逡巡(しゅんじゅん)する。小説家としてスタートを切った著者自身の悩みでもある。
「(小説が)書けないと追い詰められ、『全部がうまくいかない』と涙が出てきた。でも、この感情が小説に生かせるのではないかと切り替えた。恥ずかしいけど、自分を全部出すしかないんだと。きっと自分しか書けないものがあると、信じて書きつづけた」と振り返る。
執筆にあたり、初めて取材も敢行した。性的少数者(LGBT)を主人公にした短編では、体は男性だが女性の心を持つ人を知人の紹介で取材。関連本も5、6冊読んだという。
「この本を書いて私は強くなった。好きだと相手に伝えることもできないなかで、愛し続ける人がいる。愛するってすばらしいと、大声で叫びたくなったほどです」
成長と信頼、そして知らない誰かへの感謝から生まれた物語だ。(新潮社・1400円+税)
村島有紀
◇
【プロフィル】押切もえ
昭和54年、千葉県生まれ。10代から読者モデルとして注目され、著書に『浅き夢見し』など。現在「AneCan」専属モデルを務める。