• 図書館の魔女 第一巻
  • ロデリック
  • 杏奈は春待岬に
  • メアリー・スーを殺して
  • ウェブ小説の衝撃

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大森望「私が選んだベスト5」

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 高田大介『図書館の魔女』はGWにどっぷり読書に浸りたい人にうってつけの大長編。絶賛を集めた単行本は、上下巻合計5000円(税別)と、なかなか手を出しにくかったが、今春4分冊で文庫化され、ぐっと身近になりました。

 題名の“魔女”は、世界最古の図書館に君臨する少女マツリカ。絶大な政治的影響力を持つが、声を出すことができない。その手話の通訳として山奥の村から図書館にやってきた少年キリヒトは、言葉の力だけで世界を動かすマツリカの活躍を間近で見守ることになる。『真田丸』もかくやの権謀術数に加え、刺客との壮絶なアクション、魔道師との対決など、西洋的・東洋的要素を織り交ぜつつ、上橋菜穂子『守り人』シリーズと酒見賢一『陋巷(ろうこう)に在(あ)り』を足して濃縮したような絢爛豪華な物語が、“言語”を軸に展開する。舞台は異世界だが、小説の中身は一気通読の外交エンターテインメント。ファンタジーは苦手という人もぜひ。

 これまた長大なジョン・スラデック『ロデリック』は、ロボットの成長小説。ただし、SFのお約束もピノキオ的なほのぼのも無視して、ギャグと奇妙な論理で突っ走る。円城塔の巻末解説を読むと、だいたいの雰囲気がわかります。

 梶尾真治『杏奈は春待岬に』は、岬にひっそりと建つ洋館で出会った年上の少女との初恋を描く、著者十八番の時間ロマンス長編。

『メアリー・スーを殺して』は、“中の人”を共有する(と言われる)4人の人気作家の短編を集める、世にも珍しいワンマン・アンソロジー。中田永一名義の表題作がすばらしい。

 飯田一史『ウェブ小説の衝撃』は、ここ数年大流行の「なろう系」などネット発の小説群と、それによって激変する文芸出版の現状報告と分析。小説の未来に関心がある人は必読。

新潮社 週刊新潮
2016年5月5・12日ゴールデンウイーク特大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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