『スポットライト 世紀のスクープ』 ボストン・グローブ紙《スポットライト》チーム編

レビュー

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『スポットライト 世紀のスクープ』 ボストン・グローブ紙《スポットライト》チーム編

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

世界を揺るがしたルポ

 この硬派なノンフィクションは、本年のアカデミー賞の作品賞・脚本賞に輝いた映画『スポットライト 世紀のスクープ』の原作本である。原著は二〇〇二年の刊行だが、本書は映画の公開に合わせて作られた二〇一五年版の邦訳で、トム・マッカーシー監督と脚本のジョシュ・シンガーによる声明文が付されている。

 「スポットライト」とは、ボストンの老舗新聞社ボストン・グローブ紙の特集記事コーナーのタイトルだ。二〇〇二年一月、このコーナーに掲載された一本の記事が、やがて世界規模でカトリック社会全体を揺るがす大スキャンダルの端緒となった。その記事はこんなふうに始まる。

 「一九九〇年代の中葉以降、三〇年間にわたり、大ボストン都市圏六ヶ所の教区から一三〇名以上の人々が、ゲーガン元司祭に体を触られたり、レイプされたとする恐ろしい子ども時代の体験を訴え出た」

 本書も第一章で、まずこのゲーガン司祭事件の詳細を語る。教区の人々の敬愛を集める司祭による児童の性的虐待事件は、読んでいるだけでも辛(つら)く、腹立たしい。被害に遭った子供たちの大半が貧困家庭などの社会的弱者であり、本来、教会によってもっとも手厚く庇護(ひご)されるべき存在であるからなおさらだ。ただ、犯罪そのものよりもさらに恐ろしいのは、これがゲーガン司祭一人の問題ではなく、他にも多くの虐待司祭が存在したこと、それと承知しつつもボストンのカトリック教会組織が彼らをかばい、司法当局を丸め込み、被害者の訴えを封殺し、徹底的に事実を隠蔽してきたことである。

 「スポットライト」の記者チームは丹念で執拗(しつよう)な取材を重ね、ようやく告発の声が届くことを知って勇気を奮い起こした被害者たちの協力をとりつけて、長いあいだ看過されてきた事実を白日の下にさらしてゆく。本書には映画と違い、「カトリック教会の大罪」という副題もついている。これは、本書では犯罪と隠蔽の事実経過が、映画では記者チームの奮闘ぶりがメインになっているからだ。合わせて読み・観(み)ることをお勧めしたい。有澤真庭訳。

 竹書房 1600円

読売新聞
2016年5月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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