栄光と衰退のフジテレビ物語【自著を語る】

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フジテレビはなぜ凋落したのか

『フジテレビはなぜ凋落したのか』

著者
吉野 嘉高 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
産業/交通・通信
ISBN
9784106106613
発売日
2016/03/17
価格
814円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

栄光と衰退のフジテレビ物語【自著を語る】

[レビュアー] 吉野嘉高(筑紫女学園大学・現代社会学部教授)

 背水の陣で勝負に挑んだのだろうか――。

 フジテレビが二〇一六年の四月改編で、平日午前四時から午後七時までの十五時間を生放送にすると発表した。こんな長時間を生番組だけで編成するのは、大きな事件や事故が発生した時以外ではあり得ない。放送業界のセオリーから全くもって外れている。

 現在放送中の生番組、「バイキング」や「直撃LIVE グッディ!」を時間拡大するというが、ともに低視聴率に喘いでいる番組である。大博打と言ってもいい。

 なぜ最近フジテレビは、視聴者が首をかしげるような番組を作り続けてしまうのか? なぜ泥沼の不調から抜け出せないのか?

 そんな謎を解き明かすべく、私は本書『フジテレビはなぜ凋落したのか』を執筆した。

 この本の縦軸にあるのは、フジテレビの社員として働いた私の経験である。私が入社したのは一九八六年。フジテレビは視聴率三冠王を連発していて、まさに「テレビの王者」として君臨していた頃だ。

 会社が絶好調なのに加えて日本の景気もバブルへと突入するタイミング。得も言われぬ高揚感に浸りながら、がむしゃらに働き始めた。

 それから二十三年間、私は主にニュース番組や情報番組の制作スタッフや社会部記者として、フジテレビ黄金期の空気を存分に吸いながら働いてきた。年齢が四十代半ばにさしかかった頃、テレビ局の仕事のほかに、都内の大学で非常勤講師として教壇に立つ機会があった。それがきっかけで、二〇〇九年、大学教員に転身した。

 今振り返れば自分でも驚くような転職だが、その理由のひとつには、なんとなくフジテレビ社内の空気が滞って、重苦しくなり始めたということがある。

 本書には、このような経験が重要なファクターとして織り込まれている。さらに関係者のインタビューや関連書籍、雑誌記事なども加え、複眼的視点をもって「フジテレビの栄光と衰退の物語」を叙述した。

 栄光の八〇年代。フジテレビの強みのひとつは、番組やセクションの垣根を取っ払って、全社「一丸」となって場を盛り上げる力であった。

 冒頭で言及した四月改編における長時間生放送の試みは、編集を省いて番組制作費を削りたいのかもしれないが、一方で、番組の垣根を取っ払うことで「一丸」となり「あの頃」のようなパワーを呼び戻すことを狙ったとも言える。だとしても、こんな手法が今の時代に通用するだろうか、という疑念も拭えない。

 はたしてフジテレビは復活できるのか――。

 その歴史や社風をひもとき、「フジテレビとは何か」を詳らかにしなければ、その道のりは遠くなるばかりだろう。

新潮社 波
2016年4月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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