『3.11震災は日本を変えたのか』 リチャード・J・サミュエルズ著

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3.11 震災は日本を変えたのか

『3.11 震災は日本を変えたのか』

著者
Samuels Richard J. [著]/プレシ 南日子 [訳]/廣内 かおり [訳]/藤井 良江 [訳]/サミュエルズ リチャード・J. [著]
出版社
英治出版
ISBN
9784862761965
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『3.11震災は日本を変えたのか』 リチャード・J・サミュエルズ著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

内と外から動向分析

 東日本大震災から5年が経(た)ち、少しずつではあれ復興も進んできたかと思いきや、熊本地震が勃発した。どうやら日本は長い震災の時代に入ったのかもしれない。そうだとすると、あの3・11は何だったのか、もう一度問い直したくなる。とはいうものの、無関係の第三者として、冷徹に震災を分析できる日本人はそうはいない。被害が広域かつ甚大であればあるほど、震災そのものに関わるか、関わりの深い人と触れあう機会が多くなる。黙って感慨を心中にしまい込むのが、たしなみというものであろう。

 だが、それではいつになっても、震災の全体像を見渡すことができない。そこで現れたのが本書である。長らく日本政治を研究してきた著者は、こう問いかける。震災を機に日本は変わったか、と。著者は、アメリカの政治学者の目で、戦後日本の地方自治、エネルギー政策、国家安全保障について、研究書を書き上げてきた。震災後先鋭な議論が繰り広げられたこの三事例が、本書でもやはり主題である。どの分野でも、新しく変化を推し進めようとする声、これまで通り少しずつ変化すればよいという声、日本社会の原点に帰るべきだという声がせめぎあう。あの震災は日本社会を決定的に変化させるほどの衝撃をもたらしたわけではなかった。とはいえ、反原発の抗議行動や、透明性の高い意思決定への改革など、変化の兆しがある。変化したかどうかを見極めるには時期尚早なのである。

 原発や自衛隊については、すでに多くの本が出されている。だが本書は類書の追随を許さない。何しろ著者は、アメリカ人研究者として、「トモダチ作戦」などアメリカによる復興支援の効果を詳細に検証する。さらに日本人研究者と同水準で、道州制改革など地方自治の動向を分析しているのである。震災後の日本を内と外から自在に見渡し、平易かつ詳細に分析する。震災についてこの一冊といえば、現段階では紛れもなく本書を挙げたい。プレシ南日子ほか訳。

 ◇Richard J. Samuels=米マサチューセッツ工科大政治学部フォードインターナショナル教授。

 英治出版 2800円

読売新聞
2016年5月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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