『教皇フランシスコ キリストとともに燃えて』 オースティン・アイヴァリー著

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教皇フランシスコ キリストとともに燃えて

『教皇フランシスコ キリストとともに燃えて』

著者
オースティン・アイヴァリー [著]/宮崎 修二 [訳]
出版社
明石書店
ジャンル
哲学・宗教・心理学/キリスト教
ISBN
9784750342979
発売日
2016/02/29
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『教皇フランシスコ キリストとともに燃えて』 オースティン・アイヴァリー著

[レビュアー] 月本昭男(旧約聖書学者・上智大特任教授)

「民衆の神学」掲げ改革

 昨年夏、半世紀をこえて敵対関係にあった米国とキューバが国交を回復したことは記憶に新しい。そのお膳立てはローマ教皇によったという。信徒数12億余を抱えるカトリックの頂点に立つローマ教皇が世界に及ぼす影響力ははかりしれない。

 2013年、退位した前教皇の後に選出された教皇フランシスコ(ホルヘ・ベルゴリオ)は、ブエノスアイレスに育ったタンゴ好きの少年であった。青年期に肋膜(ろくまく)を患い、肺の一部を切除した彼は、その苦痛を通してイエズス会士になる決意を固め、研鑽(けんさん)を積む。当初、司祭として日本宣教を申し出たが、許されなかった。以後、ブエノスアイレスを中心にイエズス会士として文学を教え、司教さらに大司教として働いた。

 この時期のアルゼンチンは、政治も経済も混乱をきわめた。政治的には、マルクス主義を掲げる革命運動が起こり、軍事政権が武力でこれを弾圧する。経済的には、市場至上主義が導入され、貧困層が都市にあふれだす。教会もまた二分され、革命運動に共鳴する司祭たちは「解放の神学」を唱えた。そうしたなか、聖職者としての地位を高めてゆくベルゴリオは、市場至上主義を批判すると同時に、共産主義イデオロギーに利用されない社会正義の実現を模索した。「解放の神学」ではなく、貧しい人々に敬意を抱く「民衆の神学」を掲げ、それを教会の改革に結びつけたのである。

 著者は、アルゼンチンの現代史とすり合わせながら、またジャーナリストらしくインタビューを数多く交えながら、教皇に選出されるまでのベルゴリオの歩みを克明に描いてゆく。そこから教皇フランシスコの芯の通った思想と柔らかな感性を湛(たた)えた人柄が浮かび上がる。

 彼は中南米出身またイエズス会士出身の最初の教皇であるだけでなく、イスラム教徒に洗足式を執り行った最初の教皇である。本書には、その教皇の興味深い逸話の数々に加え、味わい深い言葉が随所にちりばめられている。宮崎修二訳。

 ◇Austen Ivereigh=英国人作家、ジャーナリスト、宗教・政治評論家。

 明石書店 2800円

読売新聞
2016年5月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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