『レーニン対イギリス秘密情報部』 ジャイルズ・ミルトン著

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レーニン対イギリス秘密情報部

『レーニン対イギリス秘密情報部』

著者
ジャイルズ・ミルトン [著]/築地誠子 [訳]
出版社
原書房
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784562052561
発売日
2016/02/25
価格
3,780円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『レーニン対イギリス秘密情報部』 ジャイルズ・ミルトン著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

外交の裏に「情報戦」

 第一次世界大戦中、イギリスとロシアは共に連合国の一員であった。しかし、1917年にロシアで革命が勃発すると、レーニン率いるボリシェヴィキ政権はドイツと単独講和し、大戦から離脱した。これに対して、イギリスは同政権の転覆を目指して、様々な干渉や工作を展開した。ここで活躍したのが、イギリスの諜報(ちょうほう)機関とロシアの秘密警察であった。本書は、両者の間で展開された熾烈(しれつ)な「情報戦」について描いたノンフィクションである。

 怪僧ラスプーチンの暗殺にイギリスの諜報員が関与していたこと、イギリスによるレーニン暗殺計画が実行寸前まで進んでいたこと、軍事干渉を行った際、チャーチル陸軍大臣の主唱によりイギリス軍が毒ガスを使用していたことなど、驚くべき事実が多数紹介されている。最終的に革命への干渉は失敗に終わり、21年に英ソ両国は通商協定を結ぶに至るが、これもイギリスが諜報活動によって得た情報に基づいて、巧みな外交を行った結果であった。

 こうしてイギリスの諜報機関は第一次世界大戦を経て成長し、秘密情報部(シークレット・インテリジェンス・サービス=SIS)と称されるようになる。映画「007」で主人公ジェームズ・ボンドが所属するとされている、あの組織である。本書には、ボンドのモデルの一人と目されている諜報員シドニー・ライリーの活躍も描かれている。ライリーは命知らずのスパイ活動を続け、大戦後に悲劇的な死を迎える。まさに「事実は小説より奇なり」である。

 著者は終章で、通信傍受は「国政を正しく判断する手段」として重要であるという、チャーチルの言葉を紹介している。現代ではこの言葉を無条件に肯定することはできないが、高度な情報収集活動が国家の生存にとって不可欠であるという現実は、当時も今も変わらない。100年前の「情報戦」から、外交のあり方について考えさせられる。築地誠子訳。

 ◇Giles Milton=1966年生まれ。イギリスの作家。著書に『奴隷になったイギリス人の物語』。

 原書房 3500円

読売新聞
2016年5月15日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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