高野秀行・インタビュー 「わからないものをわかりたい」『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―』刊行記念

インタビュー

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謎のアジア納豆

『謎のアジア納豆』

著者
高野 秀行 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103400714
発売日
2016/04/27
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉―』刊行記念インタビュー 高野秀行/「わからないものをわかりたい」

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ミャンマーの竹納豆を手にする高野秀行さん

――高野さんはコンゴで謎の生き物を探したり、“謎の独立国家”アフリカ・ソマリランドに足しげく通ったり、「人が行かないところに行く」をモットーに活動してこられました。

 そんな高野さんが次に追い求めたテーマが「納豆」だと聞いて大変驚きました。

 周囲に「いま納豆について調べている」と言うと、明らかに戸惑いの目で見られました(笑)。

 しかし、「アジアにも納豆があるんですよ」と続けると、一様に驚いて興味を示してくれます。

 日本人って、日本にいる外国人によく「納豆は好きですか? 食べられますか?」と“踏み絵”のように質問しますよね。私はそれが以前から不思議でしかたなかった。なぜみんな納豆がまるで日本文化の象徴のように思っているのだろう。私が以前長く滞在していたミャンマーのシャン州でだって納豆はよく食べられていたのに。

 そう言うと、「え! それは日本の納豆と同じなの?」「どんなふうに作ってるの?」「食べ方も同じ?」と質問攻めに遭う。でも詳しいことは何も知らないので、答えられない。

 そこで、まずシャン州の納豆について調べてみたのが、運の尽き。どっぷりと納豆にハマってしまいました。

――ミャンマー、タイ、ブータン、ネパール、中国、そして秋田県と、実にいろいろな場所に足を運ばれました。

 最初は、インターネットで納豆について調べていましたが、とにかく詳しい情報が載っていない! 納豆が食べられているという国の人に尋ねてみても、さっぱり要領を得ない。

 というのも、どこの国でも、納豆は日常生活に非常に深く溶け込んだ食べ物。あえて話題にもならないし、客人にはまず出さないので、ネットに載りづらい。納豆をよく食べる日本人でも、海外の人に「日本の納豆について教えて」と言われて、うまく説明できる人はほとんどいないでしょう。

 そのくらい、私たちは納豆について何も知らない。

 結局、自分で実際に現地に飛んで見に行くしかなかった。

――本書は、「納豆がここにも見つかりました、おもしろかった」とただ列挙するだけではありません。高野さん自身の考察に止まらず、歴史、微生物学、言語学、地理学、植物学などさまざまな分野から「納豆」を捉えて、「納豆とは、アジア納豆とは」という大きな問いにいったん結論を出しています。

 本当に突き詰めましたよ(笑)。いろいろな納豆を見るうちに、やはり「納豆とは何なんだろう」という疑問が湧いてきます。諸説ある納豆の起源について突っ込むのは、もしかして野暮なのかもしれない。

 でも、謎を明らかにしたい気持ちは止められなかった。わからないものをわかりたい、というのは大学の探検部時代から一貫したテーマです。一見、今までと全く違うことをやったように見えるかもしれませんが、今までの延長線上にあって、集大成だと思っています。

 私がかつて追っていたコンゴの謎の生物や雪男などはすべて〈人間〉に結びついています。〈人間〉から切り離されて独立した謎の生物なんていないんです。〈人間〉を理解しようとしなければ、そういった現象は全く理解できない。

 納豆も〈人間〉から切り離して単体で見ても、何もわからない。納豆を作っている人がいて、食べている人がいます。その人たちがどのような環境の中でどのようにして作っているのか、どのような気持ちで食べているのかというところまで踏み込まないと、伝える意味がないし、おもしろくない。

 普段、存在すら意識しないようなミャンマーの山奥の人たちの生活の中に、私たちがよく知っている納豆があるというのがおもしろい。納豆の糸で結ばれているのです(笑)。

 しかし、これでやり切ったとは思いません。まだまだ知りたいことがある。まずは韓国のチョングッチャン。アフリカ西部のダワダワ。それから東北の沿岸部にも納豆を作る習慣があると聞いています。納豆の旅はしばらく終わりそうにありません。

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新潮社 波
2016年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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