松田青子・インタビュー 日常には変じゃない?が溢れてます『ロマンティックあげない』刊行記念

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ロマンティックあげない

『ロマンティックあげない』

著者
松田 青子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103500117
発売日
2016/04/22
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ロマンティックあげない』刊行記念インタビュー 松田青子/日常には変じゃない?が溢れてます

『スタッキング可能』で鮮烈なデビューを飾り、カレン・ラッセル著『レモン畑の吸血鬼』など、翻訳者としても活躍。注目の作家は、日々何をインプットし、何を感じているのか。

 ***

――最新刊の『ロマンティックあげない』は、書評や映画評をまとめた『読めよ、さらば憂いなし』(河出書房新社)とは、テーマも文体もまたずいぶん違った印象ですが、どのようなきっかけで書かれたものなのでしょうか。

「小説新潮」の担当編集者さんと最初に打ち合わせをした際に、「最近、テイラー・スウィフトが気になって仕方ないんですよ」という話で盛り上がりまして。その後、デジタル雑誌の「yomyom pocket」で、そういう日常的な興味をテーマにエッセイの連載をしませんかとお誘い頂き、スタートすることになりました。

――ウェブ・マガジンの連載ということで、文体も意識的にくだけた感じになさったのですか。

 はい、そうしました。あと、個人的な目標としては、普段は「書きどころ」がない事柄について書くことにしようと決めていました。例えば羽生選手の試合中継を見ていて、「ブライアン・オーサーコーチとプーさんのティッシュケース、異常に似合ってるな」と思ったとしても、文芸誌で単発のエッセイの依頼があった時に、いきなりそのことについて書かないじゃないですか。自主規制するというか、もうちょっとちゃんとしたことを書こうとするんです。なのでこの連載では、自分的には面白いんだけど、どうしても普段後回しにしてしまう部分、書く場所がなくて取りこぼしがちになっている部分を書きたいなと思いました。

――確かに映画やドラマの話もありますが、「近所にあるナチュラルに無愛想な中華料理店の店主にしびれた」とか、「マスカラの消費期限が二~三ヵ月って使い切るの無理だろ!」とか、文芸誌にも女性誌にも書けなさそうなテーマですよね。でありながら、よくある身辺エッセイとは違って、松田さんらしいオリジナルな目のつけどころを感じます。普段から意識されていますか。

 とりわけ何か見つけようと意識しているわけではないのですが、普通に生活していても、毎日眼の前に「違和感」が現われてきて、気になって仕方ないんです。世の中で当たり前みたいに使われている言葉にもいちいちひっかかります。例えば、いつからか商品に添えられるようになった「写真はイメージです」というフレーズも不思議で仕方なくて、以前これについての短編を書いたのですが、その後も自分の中で不思議なままだったので、今回はエッセイも書きました。使用している側が思考停止しているんじゃないかな、というフレーズに興味があります。母親でもある女性の偉業を讃えるニュース記事が、「これぞ、母は強し」みたいに結ばれているのを何度も見たことがあるんですが、それ言えばいいと思ってるだろ的フレーズというか。芸能人の女性が結婚した時の、「◯◯は妊娠しておらず、仕事を続ける」とか。

――写真はイメージです、のネタは続編として、クッキーの箱に添えられた応用編のフレーズにもつっこんでますよね。

 べつにこの違和感を声高に叫びたいわけでも、それで世の中の不条理を訴えたいわけでもないんです。世の中が不条理なのは、皆わかっていることですよね。ただ単に、「あれ、これって変じゃない?」と感じたことを、そのまま言語化したかった。それを月二回、約二年間にわたって書き続けてきたのですが、単行本化にあたって今回、ゲラに手を入れるのは、わりとしんどい作業でした。

――どのあたりが、しんどかった?

 特に最初のほう、すごくテンションが高くて、この人なんなんだろうと思いました。二年前の自分なんてほとんど他人なのでもう他人事というか(笑)、いちいち書き直しても仕方がないので、開き直って日付を入れるだけにして、文章もなるべく変えないようにしました。

――タイトルの『ロマンティックあげない』にはどういう意味が込められているのですか。

 エッセイの最初の回にも書きましたが、仕事中に好きなアニメの主題歌を聞いて元気を出すときがあって。「ドラゴンボール」の『ロマンティックあげるよ』もすごく好きなんです。これをもじったというのと、女性は優しく笑顔で、尽くしたり、言うことを聞いたりと、自らを差し出す側である、という固定観念はいい加減にして欲しい、という意味合いも重ねました。

――フェミニズム的な文脈での「違和感」の話も結構出てきますよね。

 もちろんです。日常的に感じてきたことなので。例えば、ときどきトークイベントの依頼を頂くのですが、企画書に「女性ならではの感性でお話しください」とか、「女性の視点でお話しください」といった一言が書かれていることがあります。それがものすごく不思議で。当たり前ですが、女性もそれぞれ個性がある違う人なので、「女性ならではの感性で」と言われても、何を話せと言われているのかまったくわからないです。私がどう思うかだったら話せますが。男性の編集者さんから「女子のあれこれについてお話しください」と言われたこともあるんですが、「男子のあれこれについてお話しください」と言われたときに、自分は困らないのかなと。

――確かに我々男性は、何の気なしにそういう言葉を使ってしまいがちですね……。

「我々男性」とくくってしまうと、「女性ならではの感性」と同じ発想になってしまいますね。仕事でも、日常でも、そういう事が気になると、そこで考えてしまって後まで引き摺ってしまうんです。だから小説や映画やドラマも、性差や固定観念に縛られない、多様性をちゃんと描いた「善きもの」に触れないと救われないんです。新しい世界をつくろうとしている意志が見えるものというか。最近は、そういう作品にたくさん出会えるので、とても嬉しいです。

――小説を書くときの素材はどうやって見つけますか。

 日常生活のなかで、気になったこと、疑問に思ったことをとにかくメモしています。喫茶店で隣に座っている人たちの会話とかが面白くて、ずっと横でメモったり。小説のアイデアも同じノートに書いているんですが、そうしておくと、ある時急に、これとこれで一つ書けるなって、ぷよぷよみたいにつながります。あとやはりインプットがめちゃくちゃ大切だと思うので、できるだけいろんな作品を読んだり、見たりするようにしています。

――ドラマや映画はもっぱら海外のものを?

 最近のものはそうですね。そもそも今は自宅にテレビがないということもあるのですが、日本のドラマや映画は今も男性や女性の描き方が性差別的で、見ていてしんどくなることが多いです。CMを見るだけでストレスになります。海外の作品もすべてがそうだというわけではありませんが、さっき言ったような、意識的に新しい世界をつくろうとしている作品が見つかりやすいので。でも自分は興味を持った所だけ掘り下げるので、全般的に詳しいとかでは全然ないです。

――松田さんの気になるツボは、ちょっと一般的な人とはズレているかもしれませんよね。例えば、年末年始に『マトリックス』三部作のDVDを見る、という章では、キアヌ・リーブスにはちっとも関心がなくて、冴えない小柄のおじさんのキーメーカーに激しく入れ込んでいます。

 激しく入れ込んだわけじゃないですけど、ほかの登場人物がサングラスにスーツの人たちばっかりだったので、あのキャラが一番愛しやすかったです(笑)。あと、一般的であるかどうかは本当にどうでもいいんですよ。

――流行に乗せられるわけではなく、かといって背を向けるのでもなく、自分の好きなものだけを選んでもっと好きになる、という感じでしょうか。

 あんまり世の中で流行っていることに興味がないんです。世間で売れているとか人気があるということが重要じゃなくて、自分が好きかどうかを一番尊重したいです。こんなに素晴らしい作品に出会えたんだっていうことを、一つ一つ大事にしたい。

――有名人がブログやツイッターで紹介したものが流行る、という動きはもう時代遅れなのでしょうか。

 そもそもそういう動きを感じたことがないので、あまりわからないですけど、私が参考にしているのは、偶然見つけた自分と趣味が似ている人たちのタンブラーです。タンブラーは、個人的に好きだと思った画像やニュースを集める目的で使用している人が多いので、会ったこともない、それぞれ違う国に住んでいる人たちが、日々の中で好きになったものを知ることができるんです。個人のスクラップブックを覗くような感覚で、これがすごく楽しいというか、精神的にいいんですよ。彼らに面白い作品やフェミニズム関連のニュースをたくさん教えてもらいました。あと、自分は面白そうな洋書を見つける時は、個人経営の書店のインスタグラムやタンブラーを参考にしています。それぞれの書店の色がはっきりとあるので、この書店は変な作品が好きだから、おすすめしているこの小説はきっと面白いに違いない、という感じで。情報が溢れていて、SNSですぐにシェアできたり、つながったりできる現代社会で、いかに個人的であり続けるかがこれからは最重要だと思いますし、そういう中から面白いものが生まれるんじゃないかなと。あと自分の気持ちと好きなものに自信を持っていきたい。そういう楽しさを、このエッセイを通じて感じてもらえると嬉しいです。

新潮社 波
2016年5月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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