『強いアメリカと弱いアメリカの狭間で』 中谷直司著

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強いアメリカと弱いアメリカの狭間で

『強いアメリカと弱いアメリカの狭間で』

著者
中谷 直司 [著]
出版社
千倉書房
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784805110928
発売日
2016/03/15
価格
5,400円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『強いアメリカと弱いアメリカの狭間で』 中谷直司著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

国際秩序を巡る攻防

 第一次世界大戦後、東アジアの国際秩序をめぐって、日、英、米がせめぎあう。ロシア革命を経たソ連の影響力が消滅し、五・四運動を契機に中国では愛国運動が高揚する。満蒙地域の権益維持を掲げる日本と、揚子江流域の特殊利益保持を図るイギリスに対し、アメリカのウィルソン大統領は「新外交」の受け入れを迫った。

 パリ講和会議から、日英同盟の廃棄と九国条約によって東アジアの国際協調を決定づけたワシントン会議までの時代。大家による数多くの研究が蓄積されている。これらに挑む著者の手法は堅固であり、その描く相互作用の構図はダイナミックだ。まず三国の外務当局がいかなる認識の下で基本方針を練り上げたか丁寧に探る。それは他省や閣僚の意向など「政府内政治」で修正され、最終的に首脳のリーダーシップの下で交渉が展開される。パリ講和会議ですでに日本の外務省政務局第一課は、「新外交」に呼応する可能性を探り、これを十分理解した牧野伸顕全権は、ウィルソンらとの交渉に臨む。結果として、アメリカは、日本の満蒙権益を消極的に是認していく。中国に対する新四国借款団設立をめぐる日英米交渉はその延長上にあった。

 だが、ウィルソンは脳血栓症で倒れ、以後しばらくアメリカは戦後秩序形成へのコミットメントを弱める。イギリスは、東アジアでアメリカの後退の末日本と直接対決するか、日英同盟を更新してアメリカの「新外交」と対抗するかという二つの深刻なリスクに直面し苦悩する。日本も同盟について形式的な更新以上の関心を持たなくなっていた。三国はそれぞれ他国への不信感を払拭し得ないまま、旧来の権益保持か、新秩序の建設かで揺れ動く。満蒙権益、日本への英・米からの不信感、アメリカのコミットメントの強弱、1930年代以降を念頭に置くと、歴史の余韻がこだまする。丹念に論理を追う文章からは、十分に練られた思考の跡を堪能できる。歴史好きにはたまらない一冊である。

 ◇なかたに・ただし=1978年、奈良県生まれ。日本学術振興会特別研究員などを経て、同志社大法学部助教。

 千倉書房 5000円

読売新聞
2016年5月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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