『子どもは40000回質問する』 イアン・レズリー著

レビュー

1
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

子どもは40000回質問する

『子どもは40000回質問する』

著者
イアン・レズリー [著]/須川綾子 [訳]
出版社
光文社
ジャンル
文学/外国文学、その他
ISBN
9784334962142
発売日
2016/04/18
価格
1,944円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『子どもは40000回質問する』 イアン・レズリー著

[レビュアー] 柴田文隆(読売新聞社編集委員)

好奇心育てるのは知識

 〈子どもは2~5歳の間に「あれ何?」といった質問を4万回する〉〈たくさん質問する子どもは、母親からたくさん質問されていた〉

 目に付いたフレーズを並べると、お手軽な子育て本と思われそうだ。確かに本書には親向けのお役立ち情報が盛りだくさんだが、これはあくまでテレビやラジオでも活躍している著者のサービス精神。

 教育学や心理学、心性史(好奇心は精神の妨げとされ、15世紀までは否定的に考えられていた)から脳科学(知識欲は性欲、食欲と深いつながりがあるらしい)まで新知識の小皿を楽しんだ後には、胃に重いメイン料理が用意されている。

 著者は、教育における進歩主義に疑問を呈する。好奇心旺盛な子どもが知識重視の学校のせいでつまらない人間に変えられているといった考えは、間違いだと説く。「知識こそが、好奇心を持続させる力」なのである。人類が蓄積してきた文化資本を子どもに受け継がせようとする教育はエリート主義などではなく、その重要性を理解しなければ逆に格差を固定化し、社会の活力を失わせかねない。子どもの好奇心を育てることは、子どもと大人が共同で進めるべきプロジェクトなのだ。

 算数、歴史、科学、文学などの知識を身に着けた子どもは新たな知識を貪欲に獲得していく。「背景知識の幅が広いほど、新しい情報は脳に定着しやすい。情報をすくい取る網は大きいほど有利」だ。また、生涯にわたって読書など知的探究を続けてきた高齢者は脳が老化しにくいとの研究結果もあるという。

 モーツァルトやアインシュタインより後に生まれ、国際宇宙ステーションや人工知能が存在する現代に生きている私たちは、これらの偉人、先端技術を知らずに終わった人々より幸福であるはず。豊かな人類遺産を味わい楽しむためには、どんなに分厚い取扱説明書でも読破する努力を怠ってはならない。そう本書は教えている。須川綾子訳。

 ◇Ian Leslie=ノンフィクション作家。ロンドン在住。BBCなどテレビ、ラジオでコメンテーターも務める。

 光文社 1800円

読売新聞
2016年5月22日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加