ラノベとエンタメの間、ライト文芸が進化中!

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書籍情報:openBD

ラノベとエンタメの間、ライト文芸が進化中!

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

“中間小説”と言えば、純文学と大衆文学の中間にある娯楽小説のこと。ところが最近は、ライトノベルとエンタメの中間を指すと聞かされて驚いた――という話を目黒考二氏のコラムで読んで驚いた。ええっ、いつの間にそんなことに!?

 ラノベとエンタメの中間は、主にライト文芸(またはキャラ文芸)と呼ばれている。ラノベの読みやすさ+非オタク層も手にとりやすいカバーが特徴で、2009年創刊のメディアワークス文庫が嚆矢。俄然注目されたのは、同文庫の三上延〈ビブリア古書堂の事件手帖〉が大ヒットしてから。マニアックな古本ネタを扱う本格ミステリーの連作なのに、既刊6冊で600万部突破というすさまじい売れっぷり。このシリーズに出てくる絶版本の古書価が暴騰する椿事も起きた。そのあとを追って、様々な店を舞台にしたライトなショップ系連作ミステリーが続々登場。宝島社文庫の岡崎琢磨〈珈琲店タレーランの事件簿〉など、後続からも累計でミリオンを超えるシリーズが生まれている。

 さらに、新潮文庫が2014年に文庫内叢書〈新潮文庫nex〉を立ち上げて以降は、集英社オレンジ文庫、講談社タイガなど、ライト文芸のレーベルが次々創刊されている。〈nex〉の看板は、昨年の大学読書人大賞に輝いた『いなくなれ、群青』に始まる河野裕〈階段島〉シリーズ。これはファンタジー要素やロマンス要素を含む叙情的な非日常ミステリーだが、最近の〈nex〉からは、まるでタイプの違うハードなアクションも出ている。

 吉上亮『生存賭博』がそれ。ドイツ中部の隔離都市を舞台に怪物と人間が死闘を演じる。人間の出場者のうち誰が最後まで生き残るかを予想するギャンブルが巨大な娯楽産業になっているという設定だ。主役は、絶対的な記憶力を武器に非合法のノミ屋を営む少女。物語の後半は、貴志祐介『ダークゾーン』ばりの高度な戦略ゲームが戦われる。

 ちなみに、あわててリサーチしてみたところ、こういう領域を中間小説と呼ぶのはまだ一般化してないようですよ、目黒さん。

新潮社 週刊新潮
2016年6月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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