うり二つの皇太子と乞食少年が入れ替わり…無事に王位にもどれるのか

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王子と乞食

『王子と乞食』

著者
Twain, Mark [著]/村岡 花子 [訳]/マーク・トゥェーン [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784003231128
価格
842円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

うり二つの皇太子と乞食少年が入れ替わり…無事に王位にもどれるのか

[レビュアー] 渡部昇一(上智大学名誉教授)

 ヘンリイ八世という恐しい王様がいた。ローマ法王と手を切って中世以来のカトリックの大修道院を壊した。日本なら比叡山を焼打ちした織田信長みたいな人だ。時代的にもほぼ重なる。この恐しい王様の皇太子にエドワードという少年がいた。この皇太子がある偶然から乞食の少年を自分の部屋に連れ込む。この乞食少年は皇太子と同年同月同日生れで顔付きや体型までそっくりである。そして皇太子はこの乞食少年と自室で衣服の取り換えっこをしてみた。ここまでは子供の皇太子の気まぐれだ。ところが番兵を叱るために皇太子は部屋を出たのだ。

 とたんに彼を乞食少年だと思った番兵によって皇太子は道路に出されてしまう。自分が皇太子だといくら言っても誰も取り合わない。一方皇太子の部屋に残された乞食少年はいくら待っても皇太子がもどらないので不安になる。そのうち侍従の貴族がやってきたので、自分は乞食だと訴えるが誰も本気にしない。それどころか「皇太子が発狂した」という囁きが宮廷中に拡がる。

 この時のヘンリイ八世は一人息子に対して極りなくやさしい。感動的ですらある。しかし乞食少年はとまどうばかりだ。そのうち、彼はウィッピング・ボーイという役目の少年と仲良くなる。これは王子が勉強で間違った時に、王子の代りに鞭で打たれる役目の学友である。乞食少年は彼から宮廷の風習や人間関係などを聞いて次第に皇太子らしく振舞うようになって行く。

 他方、乞食にされた皇太子は絶えず危険にさらされる。ある時はヘンリイ八世の宗教改革で大修道院から追われて気が変になった老修道士に殺されそうになったりする。はらはらする場面の連続だ。

 こんな風になってしまった皇太子が、どうして無事に王位にもどれるのか。これもはらはらさせられる話になる。こんな空想少年小説を私がはじめて読んだのはざっと七十五年前であったが、最近読み出したら昔と同じく面白く、巻を措く能わざるものがあった。トウェーンの空想力に感じ入った次第。

新潮社 週刊新潮
2016年6月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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