『我が詩的自伝』 吉増剛造著

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我が詩的自伝 素手で焔をつかみとれ!

『我が詩的自伝 素手で焔をつかみとれ!』

著者
吉増 剛造 [著]
出版社
講談社
ジャンル
芸術・生活/音楽・舞踊
ISBN
9784062883641
発売日
2016/04/13
価格
972円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『我が詩的自伝』 吉増剛造著

[レビュアー] 安藤宏(国文学者・東京大教授)

異種と協働する精神

 詩人としての半生を熱く語る、その語り口が何とも魅力的だ。吉増の詩精神は、幼時の空襲の記憶に通じる、「非常時」の感覚にまで自身を追い込んでいくことにあるのだという。その対極にあるのがいわゆる「優良文化人」の世界で、それを忌避し、ぎりぎりまで「辺境」をめざすラディカリズムにこそ、その詩作の真骨頂があるわけである。

 こうした資質が一九七〇年前後の芸術界を覆っていた、ある種ラディカルな空気と幸福な結合を果たしていく過程が本書のみどころだ。芸術の“純化”を拒否し、常に異なるものとのコラボを志向してやまぬこの詩人は、美術、音楽、舞踊の世界とのさまざまな“協働”を繰り広げていく。たとえば幼時の疎開中に見た「舞う女」の記憶が大野一雄、土方巽ら前衛舞踏とのコラボにつながり、さらに島尾ミホとの関係を生み出していくことにもなったのだという。彫刻家、若林奮(いさむ)から、化石ハンマーで素材を「打つ」感覚、つまり言葉で対象を割り込んでいく感覚を学んだ、という回想も面白い。

 吉増はアメリカのビートジェネレーションの影響を受け、富樫雅彦、高柳昌行らジャズメンたちと触れあう中で、諏訪優(米文学)らと草の根的な朗読運動を開始する。ジャズ評論家の副島輝人らを仕掛け人に白石かずこ達(たち)が参集することになるのだが、人的交流の中で“異種”がぶつかり合い、あらたな世界が立ち上がり、世界に羽ばたいていく経緯は実にスリリングである。文芸誌が強い指導力を持っていたこの時代、雑誌「海」を編集していた安原顕はジャズ評論家でもあった。彼は詩を小説や散文と競い合わせる企画を大胆に打ち出し、その成果として「熱風」一千行三部作が完成するのである。

 それにしても中上健次、田村隆一など、回想に出て来る人々の風貌がなんと生き生きとしていることか。惜しみなく引用される吉増の代表作と共に“協働”の雰囲気を堪能したい。

 ◇よします・ごうぞう=1939年、東京生まれ。詩人。詩集『出発』でデビュー。文化功労者。日本芸術院会員。

 講談社現代新書 900円

読売新聞
2016年5月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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