『日本建築入門 近代と伝統』 五十嵐太郎著

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日本建築入門

『日本建築入門』

著者
五十嵐 太郎 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
工学工業/建築
ISBN
9784480068903
発売日
2016/04/05
価格
950円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日本建築入門 近代と伝統』 五十嵐太郎著

[レビュアー] 奈良岡聰智(政治史学者・京大教授)

自国らしさを模索

 近代以降の日本建築は、伝統と近代をいかに融合させるかに腐心してきた。建築家たちは、西洋の様式を熱心に摂取する一方で、その模倣にとどまらず、自国のアイデンティティをいかに表現するかを常に課題とした。しかし、「日本らしさ」とは何なのかは自明ではないため、模索が繰り返されてきた。本書は、ナショナリズムとモダニズムの相克をモチーフとして、建築における「日本的なるものとは何か」をめぐる議論を検討している。オリンピック競技場、原爆モニュメント、京都迎賓館、国会議事堂など、さまざまな有名建築が取り上げられている。

 本書を読み通すと、「日本らしさ」の表現方法は多様であり、一筋縄ではいかないことがよく分かる。例えば、木造建築は日本らしいという考え方は、現在広く共有されている。しかし、著者によれば、世界中で木造建築の伝統を持つ国は数多く存在しており、木を使うのは日本だけのお家芸というのは、世界を知らない、狭いものの見方であるという。著者は、建築家たちの日本的なデザインに関する熱い議論を紹介し、それらが強靱(きょうじん)な思考を鍛え、時代を前に進める原動力となってきたと説く。

 そうした議論の結果、洗練された融合が行われるようになった例として、万博パヴィリオンが挙げられる。20世紀初頭まで、日本は海外の万博に参加すると、和風の日本館を建設するのが常であった。神社、茶室など、異国趣味を喚起する建物によって、新奇な「日本」を直接体験できるようにするのが狙いであった。しかし、1937年のパリ万博以降は、モダニズムを基調としながら日本的な空間を感じさせるデザインとなり、近年は安藤忠雄、坂茂らによって傑作が生み出されるに至った。

 今や日本建築は世界から一目置かれる存在となったが、昨今の新国立競技場をめぐる迷走によって状況が著しく悪化しているという。将来を見通すためにも、過去の真摯(しんし)な議論を振り返りたい。

 ◇いがらし・たろう=1967年、フランス・パリ生まれ。東北大教授。著書に『現代建築に関する16章』など。

 ちくま新書 880円

読売新聞
2016年5月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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