『アトミック・メロドラマ』 宮本陽一郎著

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アトミック・メロドラマ

『アトミック・メロドラマ』

著者
宮本 陽一郎 [著]
出版社
彩流社
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784779122187
発売日
2016/04/08
価格
3,888円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『アトミック・メロドラマ』 宮本陽一郎著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

米文化を学際的に読む

 「オペレーション・キュー」――1955年5月5日、白人夫妻のマネキンまで用意して、豊かなミドルクラス家庭の家屋が5軒、ネバダ州に設置された。核攻撃が市民の日常生活に与える影響を確認するための核実験である。小規模の核爆弾を用いたため被害は限定的で、ハッピーエンドを迎える。その様子はテレビで報じられ、ドキュメンタリー映画にもなった。

 「冷戦期の『アメリカ』とは、核による破壊とパクス・アメリカーナの繁栄が背中合わせになった幻影の世界であり、そのような形象はメロドラマ的想像力によって生み出され、メロドラマ的ジャンルによって再演されるのである」と、著者は説く。この命題を明らかにすべく、本書は1950年代アメリカの文化、とりわけ映画と政治や社会の接合を読み込んでいく。

 西部劇とアメリカの軍事文化との関係や、「蝿(はえ)男の恐怖」のようなSF映画に見られる核家族や地下室をめぐる解釈には、思わず膝を打つ。ショック療法が文化や文学に与えた影響、ジェームズ・ディーン主演の映画「理由なき反抗」の背景にあった精神病理学などのテーマも興味が尽きない。さらに、映画における一夫一婦制(モノガミー)の描かれ方やファミリー・メロドラマの構造も、分析の俎上(そじょう)に載せられる。こうした文化研究からの野心的、学際的な取り組みに、政治学や外交史などの社会科学も積極的に応答し、概念を整合させ共通の理解を広げていかなければならない。

 「私的な終章―教育のために」は決して私的ではない。日本とアメリカの、否、グローバルな高等教育の課題が、著者の多彩な経験と強い情熱に照らして語られている。本書自体が今日の教養教育への取り組みの産物でもあるという。「私はこのような時代に、日本の大学の教員そしてアメリカ研究者としての仕事を持ったことを、必ずしも後悔していない」という、著者の結びの言葉に、深い敬意を表したい。

 ◇
みやもと・よういちろう
=1955年、東京生まれ。筑波大教授。著書に『モダンの黄昏』など。

 彩流社 3600円

読売新聞
2016年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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