『アフガン・対テロ戦争の研究』 多谷千香子著

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アフガン・対テロ戦争の研究 タリバンはなぜ復活したのか

『アフガン・対テロ戦争の研究 タリバンはなぜ復活したのか』

著者
多谷千香子 [著]
出版社
岩波書店
ISBN
9784000220903
発売日
2016/03/25
価格
6,480円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『アフガン・対テロ戦争の研究』 多谷千香子著

[レビュアー] 出口治明(ライフネット生命保険会長)

 今日の世界は相次ぐ国際テロに見舞われているが、元をたどれば9・11(米同時テロ)の復讐(ふくしゅう)戦として始まったアフガン・対テロ戦争に行き着く。アメリカは2001年以来、1兆ドルを超える巨費を投じ、14年間にもわたる史上最長の戦争を戦い、2356人の米兵が死亡した。その結果どうなったか。アフガニスタンは内戦の瀬戸際にあり、パキスタンは破綻国家への道を歩んでいる。本書は、この誤算続きの戦争を詳述した力作だ。

 ブッシュは、アメリカ型民主主義の普遍性を信じ込み、テロリスト(アル・カーイダなど)を匿(かくま)うタリバン政権を倒せばアフガンは安定すると考えた。タリバン政権が簡単に崩壊したので、同じ理屈でイラクにも攻め込んだ(タリバンは単に都市を明け渡しただけだったが)。しかし、アメリカに協力したパキスタンは、裏でタリバンを助けるダブルゲームを決め込んだ。なぜか。それはインドとパキスタンの独立以来の宿痾(しゅくあ)、SD政策(戦略的深み政策。アフガンに親インド政権を作らせないというもの)を信奉していたからだ。アメリカは、アフガンの地政、歴史、民族性に昏(くら)く、ダブルゲームに気付くのが遅れた。

 本書は、地域の歴史を丹念に掘り起こし、個々の軍事作戦の細部に至るまで丁寧な分析を進めていく。当初、タリバンのリーダー、オマルは9・11に反対し、オサマ・ビンラーディンをアメリカに引き渡そうとしていたが、アメリカは読み損なった。ビンラーディンが隠れ家に潜んでいることを地域の無料ワクチン接種で確認したことなど、衝撃的な事実も明らかにされる。このあたりは推理小説のようだ。著者は、アル・カーイダの大物に標的を絞る作戦に特化していれば、タリバン政権やフセイン政権が存続し、人権状況に懸念があるにしても、社会は安定し、「イスラム国」の誕生を見ることもなかったと総括している。歴史に学ぶべき点は多い。

 ◇たや・ちかこ=1946年生まれ。最高検検事を経て法政大教授(国際刑事法)。著書に『戦争犯罪と法』など。

 岩波書店 6000円

読売新聞
2016年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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