『核の脅威 原子力時代についての徹底的考察』 ギュンター・アンダース著

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核の脅威

『核の脅威』

著者
ギュンター・アンダース [著]/青木 隆嘉 [訳]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
哲学・宗教・心理学/哲学
ISBN
9784588010408
発売日
2016/04/26
価格
3,672円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『核の脅威 原子力時代についての徹底的考察』 ギュンター・アンダース著

[レビュアー] 納富信留(ギリシャ哲学研究者・東京大教授)

今も重い終末への警告

 核戦争等による危険を時刻で象徴する「世界終末時計」は、昨年から人類絶滅の3分前を指している。この数値は1950年代の2分前に次ぐ危険域にある。世界で保有される1万5000発余りの核爆弾は、地球上の全人類を何度も破滅させるに十分である。それは拡散の傾向にあり、地域紛争やテロにも用いられかねない。だが、私たちはもはやそんな事実に深刻に悩んでおらず、危惧や反対を声高に叫ぶこともない。

 独の哲学者フッサールに現象学を学びアメリカに亡命してジャーナリストになったアンダースは、戦後の日本で核兵器廃絶運動にも参加して世界に向けて哲学からメッセージを発し続けた。50年代末から60年代に発表された論文の集成は、著者の没後もドイツで版を重ね、今新たな訳書で提供された。半世紀を経て、何か根本的に変わったのか。この間核戦争は起こらなかったのだから人類は信頼できると楽観できるのか。著者からの問いかけが今も重く響く。

 アンダースは私たちが主体性を失う中で、レトリックによって問題を隠蔽し忘却し、不感症になっている状況を糾弾する。彼は核に「兵器」という名称を使うことも拒絶し、「政治」そのものが崩壊する全体主義の構造を示す。私たちが知らずに核の生産維持に関与する社会機構にも切り込み、その責任を問う。人類が絶滅する、無化する可能性を私たちの思考や想像力は捉えることができない。想像力が破壊された中でどう生きるべきか? 世界の終末への警告が繰り返される。

 危機が一向に改善しない中、オバマ米大統領が広島で「核なき世界」への可能性を訴えた。アンダースならどう聞いただろう。実効性や外交政策の論議も大切である。だが、私たちが置かれる核の状況への哲学からの根本的考察こそ何よりも必要ではないか。アンダースが日本で被爆者と語り合い、期待した未来を受け止めるのは、私たちの責任である。青木隆嘉訳。

 ◇G●nther Anders=1902~92年。独ブレスラウ(現ポーランド領)生まれ。国際的反核運動の指導者。

 法政大学出版局 3400円

 ※●は「u」の上に「・・」

読売新聞
2016年6月5日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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