「手数」は“てすう”? “てかず”? 「指名手配」は“指名てくばり”?

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

漢字と日本語

『漢字と日本語』

著者
高島, 俊男, 1937-2021
出版社
講談社
ISBN
9784062883672
価格
968円(税込)

書籍情報:openBD

「手数」は“てすう”?“てかず”? 「指名手配」は“指名てくばり”?

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 私は昭和四十五年の入門です。当時の楽屋で古老達が発した言葉が忘れられません。志ん生は患ってそこにいませんでしたが、文楽、正蔵、文治、円生、小さんといった人達のそれは、くだけてはいてもそこそこ上品で、私は古きよき東京がここにあると感激したのです。中でもともに長屋住いで家も近い正蔵と文治のやりとりは落語の登場人物そのもので、江戸の生き残りを感じさせたのでした。

 以来、言い回しや言葉の由来に興味を持つようになり著者に巡り合うわけですが、さて本書のどの部分を紹介しましょう。なるほどと勉強になっても長かったりするのです。

 こんなのはどうでしょう。和漢混種語(まぜこぜ語)です。著者は鈴木修次『漢語と日本人』(’78みすず書房)の中の「手」を例に挙げます。手金(てきん)、手酌(てじゃく)、手職(てしょく)、手数(てすう)、手勢(てぜい)、手製(てせい)、手代(てだい)、手帳(てちょう)、手錠(てじょう)、手配(てはい)、手本(てほん)、手練(てれん)。そしてこう論考します。「このうち手数と手配はもと和語である。“てかず”を“手数”と書いているうちに“てすう”とよむ人が出てきた。現在“てかず”と言う人と“てすう”と言う人は半々ぐらいじゃなかろうか。手配はもと“てくばり”。“手配”と書いているうちに“てはい”と言う人がふえてきた。今たとえば“指名手配”を“指名てくばり”と言う人はほぼゼロでしょうね」と。

 指名てくばりはいいですよね。言ってみたい気がします。その他にも読みどころは多いのですが、あとがきさえ著者の面目躍如です。“おとす”についての考察です。新聞等は“落とす”と表記しますが、著者は必ず“落す”と書くそうな。“おと”が語幹で“す”が活用語尾だからで、当然“落さない”“落しました”と書くわけです。「子供が、どうして“落ちる”の“落”の字は“お”だのに“落す”の“落”は“おと”なのですか、と先生に質問する」というシーンを著者は想定します。そして落語の“落(オチ)”のような展開に。

新潮社 週刊新潮
2016年6月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク