続編だから過小評価? 『幸せになる勇気』は愛の物語なのだ

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幸せになる勇気

『幸せになる勇気』

著者
岸見 一郎 [著]/古賀 史健 [著]
出版社
株式会社ダイヤモンド社
ジャンル
社会科学/社会科学総記
ISBN
9784478066119
発売日
2016/02/25
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

続編だから過小評価?『幸せになる勇気』は愛の物語なのだ

[レビュアー] 田中大輔(某社書店営業)

 アドラー旋風を巻き起こし、発行部数が100万部を超えた『嫌われる勇気』の続編、『幸せになる勇気』が売れている。『嫌われる勇気』とともに、ビジネス書ランキングの上位を独占していたので、いまさら紹介するような本ではないかもしれない。しかしこの本はベストセラーの続編ということで、過小評価されている気がしてならないのだ。前作に比べても遜色ない本なので、ぜひ多くの人に読んで欲しい。

『嫌われる勇気』では「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」という考え方を学ぶことができる。『幸せになる勇気』では、人間にとっての過去というものは、「いまのわたし」を正当化するためにあるものだということを学ぶことができる。また伊坂幸太郎の小説『PK』(講談社)にも出てくる「臆病は伝染する。そして勇気も伝染する」という刺激的な話も出てくる。『嫌われる勇気』がアドラーの入門編だとしたら、『幸せになる勇気』は発展編とでも言えばいいだろうか。アドラーの教えをより深く知るためには必読の本である。

『幸せになる勇気』では、青年が読者の声を代弁してくれる。青年はアドラーの教えに限界を感じ、それを捨て去ろうとするのだ。そして理想論のように聞こえる哲人の言葉の数々を聞き、もがき苦しむ。アドラー心理学は誤解が容易で、理解が難しい思想である。だから青年は哲人を詐欺師呼ばわりし、罵詈雑言を浴びせかけるのだ。しかし哲人は折れることなく青年を諭していく。

 尊敬、自立、競争と協力、信用と信頼、といった様々な議論をしたのち、最後に哲人は愛について語り出す。この本が特に素晴らしいと思うのはここだ。「愛するということはたんなる激しい感情ではない。それは決意であり、決断であり、約束である」と哲人は青年に語りかける。『幸せになる勇気』は愛の物語なのだ。エーリッヒ・フロムの『愛するということ』(鈴木晶訳、紀伊國屋書店)にも劣らない、愛についての名著だと思う。愛こそが幸せの源である。愛し、自立し、人生を選ぶこと。それが幸せになる勇気の真髄である。

新潮社 週刊新潮
2016年6月16日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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