『大きな鳥にさらわれないよう』
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大きな鳥にさらわれないよう 川上弘美 著
[レビュアー] 千石英世(文芸評論家)
◆神の領域を本格的に
いつもの川上弘美のように静かにふくよかにすべりだす物語なのだが、何かがいつもと違っている。全部で十四の章を花綱のように結んでつながる長篇なのか、いやいや全部で十四の短篇を鎖状にリンクさせた短篇連作なのか、いやいや全部で十四の断章をジグソーパズル風にあしらい散らしたポストモダン小説なのか、いずれにしても読み進めるうちにいつもの異界ぶりがどんどんいつもを越えてゆく。世界の終わりを描いているからなのか。いやいや世界の終わったあとの凹界を描いているからか。
いかにもSF風味の新作なのだが、いつもの微風が吹きわたっているのは変わらない。だが、人間消滅、どころか、本日から六十億年後にみられるという太陽焼尽の日をみすえた小説である。かたちあるものは消える。凹界も消える。二十数年前のデビュー作、くまの登場する掌篇「神様」に語られた問題をさらに追究した本格的取り組みといっていい。神を語った小説ともいえそうだ。
小説末尾、神様たちは男ではないらしい、人間ではないらしい。ちなみに男と人間は横文字では同じマンである。そして父になるひとである。それが消されている。母たちは無数に登場するのに。「大きな母」もいるのに。3・11を機に「神様」を書き換え「神様2011」とした作者の野心作だ。
(講談社 ・ 1620円)
<かわかみ・ひろみ> 1958年生まれ。作家。著書『溺レる』『真鶴』『風花』など。
◆もう1冊
川上弘美著『神様』(中公文庫)。くまにさそわれて散歩に出る表題作など、生きものとの交流を描く九つの物語。