B面昭和史1926-1945 半藤一利 著

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

B面昭和史 : 1926-1945

『B面昭和史 : 1926-1945』

著者
半藤, 一利, 1930-2021
出版社
平凡社
ISBN
9784582454499
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

B面昭和史1926-1945 半藤一利 著

[レビュアー] 下川耿史(風俗史家)

◆戦争へ進む世相 検証

 本書は「歴史探偵」の著者が、各年代の政治ネタ(著者のいうA面)と世相ネタ(B面)を対比しつつ、日本が戦争に突き進んでいった過程を検証している。

 A面ネタの一例として、昭和十年に陸軍軍務局長の永田鉄山少将を暗殺した相沢三郎中佐の話が紹介されている。事件は陸軍内の権力争いが原因だったが、逮捕後、取調官に賞罰について問われた中佐は「今回はまだもらっていない」と答えたという。中佐は自分は純粋な気持ちで殺したのだから、世間から称賛されるに値すると考えていたのだ。殺人を「称賛されるべき」だと考える精神は明らかに異常だが、陸海軍が常軌を逸した命令を次々に国民に押し付けるようになったのも、この頃からだった。

 B面の出来事として、「エロ・グロ・ナンセンス」といわれた昭和初期にはロバ、ヤギ、ブタ、牛による富士山早登り競争がおこなわれたという。東京日日新聞が主催したもので、一着は牛の八時間十分、続いてロバ、ヤギ、ブタの順だった。当時は世界的な不況のさなか、こんなやけくそな遊びが話題となったのだ。

 本書はユニークなエピソードを掘り起こしながら、あのひどい時代が常軌を逸した軍部の行動と、それを止められない政治家、軍部の尻馬に乗って庶民をあおりたてたマスコミの「負の相乗効果」から生まれたことを浮き彫りにしている。
(平凡社・1944円)

<はんどう・かずとし> 1930年生まれ。作家。著書『ノモンハンの夏』など。

◆もう1冊 

 鳥居民著『昭和史を読み解く』(草思社文庫)。近現代史研究家が敗戦や原爆投下の理由などを独特の視点で読み解く。

中日新聞 東京新聞
2016年6月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク