『ことばおてだまジャグリング』 山田航著

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ことばおてだまジャグリング

『ことばおてだまジャグリング』

著者
山田 航 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163904443
発売日
2016/04/22
価格
1,404円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『ことばおてだまジャグリング』 山田航著

[レビュアー] 青山七恵(作家)

日本語自体の面白さ

 大昔のいつか、誰かが言葉というものを発明してくれたおかげで、今の私たちは言葉を通して自分の考えを表現したり他人の考えを理解することができる。しかしそれゆえ、言葉の問題はややこしくて悩ましい。言い過ぎたり一言足りなかったりしたせいで人間関係は簡単にこじれてしまうし、誰かの何気ない一言を曲解してくよくよしてしまうこともある。学校や会社でレポートや報告書を書くにも、友人にメールを送るにも、どうしたらもっと上手に無駄なく伝えたいことを言葉で表現できるのか、世の多くの人は日々苦心しているのではないだろうか。

 しかし本書は、そんな言葉の効率追求に待ったをかけて、日本語の言葉それ自体が持つ面白さに目を向けさせてくれる。新鋭の歌人であり回文作りの名人でもある著者は、小さい頃から「物語」の類(たぐい)が苦手で、一方文字や言葉そのものには強い興味を持っていたそうだ。そんな著者が本書で紹介するのは、言葉を使って言葉で遊ぶ十二のゲーム。アナグラム、パングラム、早口言葉、しりとり、なぞなぞ……著者と一緒に言葉の海に遊ぶうち、読者は普段当たり前に使っている日本語の奇妙さと魅力に改めて気づかされることだろう。圧巻は、「サラダ」「力士」のように同じ母音を持つ単語を五つの母音別にグループ分けし、それぞれのグループだけで物語を紡いでいく十一章の「虹のリポグラム」だ。著者の勇猛な遊び心がいかんなく発揮されているこの五つの物語は、日本語のユニークな音の響きと宙づりになった意味の可笑(おか)しさがからまりあって、音読してみると最高に楽しい。

 一読して、私はすっかり、言葉に対する日頃の態度を反省してしまった。情報伝達手段という言葉の一側面だけに囚(とら)われて、言葉自体が持っている面白さ、奥深さを見落としてしまうのは本当にもったいない。書類疲れした大人たちにも、国語科目に苦手意識を抱えている子どもたちにも、ぜひおすすめしたい一冊だ。

 ◇やまだ・わたる=1983年、北海道生まれ。歌集『さよならバグ・チルドレン』で現代歌人協会賞。

 文芸春秋 1300円

読売新聞
2016年6月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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