『算数・数学はアートだ!』 ポール・ロックハート著

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算数・数学はアートだ!

『算数・数学はアートだ!』

著者
ポール・ロックハート [著]/吉田新一郎 [訳]
出版社
新評論
ジャンル
社会科学/教育
ISBN
9784794810359
発売日
2016/04/04
価格
1,836円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『算数・数学はアートだ!』 ポール・ロックハート著

[レビュアー] 朝井リョウ(作家)

学びたくさせるには

 応用のために必要なのは基礎。学生時代、この言葉をよく聞いた。特に、数学の授業中に。

 著者はまず、数学とは、発見、直観、挫折、ひらめきなどに満ちているという点で、音楽や美術と同じくアートだと述べている。一点違うところがあるとすれば、社会全体が数学をアートだとは認めていないところだ、とも。

 この本には、現代の数学教育への問題意識が詰まっている。今の形式のテストで点数を取るには、教師が子どもに基礎を教え込み、公式を暗記させる方法が最も適している。しかしそれは、『三角形の面積を求める公式は、底辺×高さ÷2』というように質問と答えを同時に提示することであり、そこに子どもたちによる発見、直観、挫折、ひらめきが入り込む隙がないことを意味する。応用のための基礎訓練、つまりアート性や自主性を欠いた訓練が繰り返されるうち、子どもたちに「勉強=面白くない」という認識が早々と植え付けられてしまうという問題は、どの教科にも当てはまるだろう。

 ただ、子どもの自主性を重んじたカリキュラム、通称ゆとり教育により、日本の学力は低下、または個人間の格差が広がったとも言われている。やはり自主性云々(うんぬん)よりまずは基礎を教え込むことが大切ではないのか――私たちがそう疑い始めるあたりで、著者はこう主張する。

 走るために必要なのは、歩く技術ではない。「あなたが走っていきたくなる何か」だ。

 この言葉を読んで、私は、自分が小説を書き始めたころを思い出した。あのころの私は日本語の基礎など何も知らなかったが、書きたくなる何か、には出会っていた。文節ごとに文章を区切れ、なんて未(いま)だに間違う問題で築かれた基礎知識は、何のエンジンにもならなかった。

 この本に関して一つだけ残念なのは、具体的な新しいカリキュラムが提示されない点だ。だがそれは、教育を公式化しないという著者の一貫した主張の表れなのだろう。吉田新一郎訳。

 ◇Paul Lockhart=米・ニューヨークの私立学校セイント・アイヴスで算数・数学を教える。

 新評論 1700円

読売新聞
2016年6月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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