『日本の動物政策』 打越綾子著

レビュー

3
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

日本の動物政策

『日本の動物政策』

著者
打越 綾子 [著]
出版社
ナカニシヤ出版
ISBN
9784779510519
発売日
2016/04/15
価格
3,780円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『日本の動物政策』 打越綾子著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

安易な一般化に警鐘

 動物園の人気者といえば、テレビニュースの格好の話題である。だが、動物園については、「動物園法」といった法規制の仕組みがない。多くは首長お手盛りの公立施設として、先々のことを考えずに開園されたものだという。現場の対応で何とかしのいでいるのが現状なのである。

 「動物たちがかわいそうだ!」と思ってしまいたくなるが、ちょっと待ってほしいと打越氏は言う。ペットの延長で野生動物やら実験動物やらを考えてはいけない。野生動物については、駆除を望む地域社会があり、実験動物には研究目的のために厳格に管理する研究機関がある。あまねく動物を愛護すべきだという動物福祉の理念は尊重されるべきだとしても、それを法体系や政府の規制活動に十全に浸透させることができるわけではない。たとえば多くの畜産動物は食肉処理されるために飼育されており、ペットのように看取(みと)られることはない。動物のタイプに応じて動物観は異なるのである。

 打越氏は地方自治体の現場を熟知した目で、日本の動物行政を分析している。この分野を切り拓(ひら)く傍ら、6匹の猫を引き取り、長野県軽井沢町で野生動物問題について町民・行政・専門家をつなぐ活動に尽力した。身近な動物と触れる体験をもとに社会科学の知見を生かし、多様な動物の愛護・管理の状況を平易に説く。

 いまだ動物愛護の後進国とされる日本であるが、打越氏は行政責任の曖昧性、マンパワー不足、適正飼養に関する社会的合意の不在に加えて、細やかな配慮が必要な動物行政では、安易な一般化が感情的対立を生むことに警鐘を鳴らす。そのものを慈しむ気持ちが、うるわしい協力を生む一方で、事情の異なる他者に対して愛護を無理強いすることで、暴力的に作用しかねないのである。保育園建設をめぐる昨今の紛争を考えれば、まさに幼児保育、老人介護に通ずる、いかにも現代的な問題状況ではないか。様々な読み方へと誘(いざな)う好著である。

 ◇うちこし・あやこ=1971年生まれ。成城大教授。著書に『自治体における企画と調整』など。

 ナカニシヤ出版 3500円

読売新聞
2016年6月12日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加