【聞きたい。】デザイナーの太刀川瑛弼さん『デザインと革新 未来をつくる50の思考』 以前の僕が読みたかった本

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【聞きたい。】デザイナーの太刀川瑛弼さん『デザインと革新 未来をつくる50の思考』 以前の僕が読みたかった本

[文] 黒沢綾子

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太刀川瑛弼さん

 わかりにくいデザイナーだ。グラフィック、プロダクト、空間、ウェブ…と、デザイン領域も表現スタイルも、目的に合わせて変幻自在に変える。変わらないのは「社会に良い変化(イノベーション)をもたらすためのデザイン」という理念。デザイン会社、NOSIGNER(ノザイナー)を立ち上げて丸10年。「いま僕が、デザインとイノベーションのために大事だと思うことを、包み隠さず詰め込んでみた。デザイナーになる前の僕が、本当に読みたかった本です」

 〈できないことを正確に知れば上達する〉〈いい答えを出すよりいい問いを生み出すこと〉など、列挙された50項目にはデザイナーを志す若者のみならず、一般社会人が参考にできる提言も多い。「いいデザイナー、チェンジメーカー(変化を生む人)が増えてほしい。企業内にもクリエーティブな精神を持った経営者や社員が増えてほしい…」

 熱い語りは止まらない。20世紀前半の経済学者、シュンペーターの言葉も飛び出す。「イノベーションとは新しい結合を起こすこと」。地球温暖化や生物多様性の崩壊、人口爆発、金融システムの危機…。さまざまな課題に対し、デザイナーは形よりも関係性をつくる仕事だという。

 その好例が、東日本大震災発生から40時間後にNOSIGNERが開設した、災害時に有効な知識を共有するサイト「OLIVE(オリーブ)」だ。世界から集まったアイデアはいまや英語や中国語、韓国語へと翻訳されている。そのノウハウを生かして電通、東京都とともに編集したのが、750万部を発行し都内の各家庭に配られた話題のマニュアル本『東京防災』だ。

 「僕はまず未来の景色を思い描き、そのために起こるべき変化から逆算して、ものを考える。皆が今よりちょっとだけ遠くまで考えたら、世の中は少しずつ変わるんじゃないかな」(パイインターナショナル・1800円+税)

 黒沢綾子

【プロフィル】太刀川瑛弼

 たちかわ・えいすけ 昭和56年生まれ。慶応義塾大学大学院理工学研究科修了。在学中の平成18年にデザイン会社、NOSIGNERを創業。アジアデザイン賞大賞など受賞多数。

産経新聞
2016年6月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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