書店で下品さを確認してからの購入がお勧め 「孤高」の真逆の短編集

レビュー

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グローバライズ

『グローバライズ』

著者
木下 古栗 [著]
出版社
河出書房新社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784309024523
発売日
2016/03/24
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

書店で下品さを確認してからの購入がお勧め 「孤高」の真逆の短編集

[レビュアー] 武田将明(東京大学准教授・評論家)

 珠玉の短篇という言葉があるが、本書に収められた十二篇のどれを読んでも、いやどの頁を開いても、そこに広がるのは瓦礫の山である。

 文学的に拙いわけではない。例えば「globarise」(原文ママ)で、気球と化した首なし人間が天空を急上昇・急降下する場面は強度に満ちている。しかし本書は、読者からの共感を決して許さない。随所に陳腐な言い回しを織り交ぜ、文字通り血や糞や妖しげな薬物を撒き散らすことによって、あえて嘘くささを纏わせるのだ。

 その結果、どの作品でも現実の足がかりを失くした言葉が勝手に膨張し、収拾がつかないまま自爆して終わる。もっとも、爆発の仕方はさまざまだ。「道」のように、卑猥な似非中国語が延々と続いた後、愚にもつかぬダジャレに落ちることもあれば、「フランス人」と「夜明け」のように、突然アルプスの高原で変態行為に耽る青年が登場することもある。

 こういう書き方を独りよがりの妄想と切り捨てることもできる。しかし、私的なつぶやきさえもネットを介して世界中に伝播する時代に、気安く「いいね!」などと言われることを拒否する頑なさによって、本書の言葉は孤高(というより「孤低」?)を保っている。

 本書のタイトルは「グローバル」なる言葉が象徴する、安易につながろうとする世界への皮肉であり、意図的なスペルミスからもそれが窺える。同時にこれは、まるで「global」の「l」が頭を押さえつけられ、「r」の姿勢で踏んばっているかのようだ。この「r」には、偽物の世界を転覆する意志が秘められているのかもしれない。瓦礫の山の下には不穏なエネルギーが宿っている。

 あまりにユニークな本書は、ネットで注文するより、書店でその下品さを確認してからの購入をお勧めする。この点で本屋大賞に推挙されるべき作品である。

新潮社 週刊新潮
2016年6月23日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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