世界情勢に対して正しい理解をするためにも、「歴史を学ぶ」ことは不可欠

レビュー

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流れをつかむ日本の歴史

『流れをつかむ日本の歴史』

著者
山本 博文 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784044000936
発売日
2016/05/25
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

タカシ君(仮名)にあげたい本

[レビュアー] 門賀美央子(書評家)

 世の中には「歴史嫌い」な人がいるらしい。

 らしい、と推定の助動詞を使ったのは、ほぼ文系人間で固まっている私の周辺ではあまり見かけないからである。私自身、歴史は大好きだ。しかし、あれこれ顔を思い浮かべていくうち、ある人物に思い当たった。従兄である。彼は歴史に限らず勉強全てが嫌いという逸材で、進学はスポーツ推薦で乗り切った剛の者だ。彼に聞けば、歴史嫌いの真情がわかるかもしれない。

 私はさっそく電話インタビューを敢行した。

「タカシ君(仮名)はやっぱり歴史の勉強が嫌いだった?」

「うん、嫌いだったし、今でも嫌い」

 予想通りの答えに、嬉しくなる。

「タカシ君(仮名)ならそう言ってくれると思ったよ。で、どうして嫌いなの?」

 以下は、学生時代の怨念こもった彼の供述を簡単にまとめたものだ。

一、中学年の頃の地域史を調べる授業は外に出られるから嬉しかったけど、六年生になるといきなり「数百年前には縄文時代というのがあって」など、自分とは全く関係ない座学ばかりになって、萎えた。

二、中学校では何年に何が起こった的な話が中心になり、数字人名問わず暗記が大の苦手な自分としては、萎えた。

三、さすがに聖徳太子や徳川家康ぐらいは知らないとヤバいとは思うけれども、その他小物の名前を覚えていても意味がない。

四、ていうか、そもそも歴史学習の意義がわからない。実際、社会に出て役に立った事がない。お前みたいな仕事ならともかく、普通は趣味の範疇だ。

 パーフェクトな答えだった。『流れをつかむ日本の歴史』の著者・山本博文先生がやんわり指摘されている「歴史嫌い」の言い分を完璧に押さえていたのだから。

 だいたい日本史の授業は旧石器時代から始まるし、縄文時代は数百年前じゃないし、君に小物扱いされた歴史上の偉人たちは口惜しゅうて草葉の陰で泣いておろうよ、などなど突っ込み始めるとキリがないが、ポイントは「歴史は暗記、萎える」と「歴史など自分には無関係」という二つの思い込みにあるのは明白だ。

 この二点について、山本先生は本書で明確な答えを用意している。

「日本史を学ぶ上で重要なことは、『歴史の流れをつかむ』ことです」

「日本史を学ぶことは、単なる趣味や教養にとどまるものではありません」

「現代史のあり方には、すべて歴史的に形成された要因があります。世界情勢に対して正しい理解をするためにも、歴史を学ぶことは不可欠なことなのです」

 本書は先生のこうした考え方を反映し、「流れをつかむ」ことに徹底してこだわった構成になっている。序章で日本史全体をざっと鳥瞰した後、各時代を解説する章の冒頭で改めてその時代がどう変遷したかを解説する。少しずつブレイクダウンしていくのだ。

 この流れに一度乗ってしまえば、歴史はすべて前史と密接に繋がることが自然と理解できるようになるし、流れの末が現代であるとの実感がわく。

 経済格差、テロリズム、環境破壊。私達の生活に直結する社会問題は、いくつもの歴史が重なった結果だ。その認識がないと、対処法も覚束ない。

 ISは十九世紀以降続く中東の混乱が生んだ鬼子であるし、その混乱はさらに前代の欧州の覇権主義に繋がる。歴史の流れで見れば、ISを力で潰したところで新たな過激主義の温床を生んで終わりだろう。もっと卑近な例、卵一個、バナナ一本の値段だって歴史と無関係ではない。グローバル経済もまた、歴史の申し子なのだから。

 電話では、この説明に今ひとつ納得してくれなかったタカシ君(仮名)に、私は本書を贈ろうと思う。未来に責任ある現代人にとって、歴史とはこれ以上ないほどの実学であり、必修科目だ。歴史が苦手な人にぴったりのこの本は、きっと彼のよい導き手になってくれるにちがいない。

KADOKAWA 本の旅人
2016年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

KADOKAWA

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