[本の森 ホラー・ミステリ]『伴連れ』安東能明/『サブマリン』伊坂幸太郎/『誰も僕を裁けない』早坂吝

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『伴連れ』安東能明/『サブマリン』伊坂幸太郎/『誰も僕を裁けない』早坂吝

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 今回はあれこれとシリーズ作を。まずは安東能明(あんどうよしあき)『伴連れ』(新潮社)は、『撃てない警官』『出署せず』に続くシリーズ第三作で、三十六歳でエリート街道から外された柴崎という警部が中心人物。

 署長の呼び出しより私用を優先する若手刑事・高野朋美(たかのともみ)が警察手帳を掏られた事件や、老朽化したアパートでの若い男性の転落死、あるいは執拗なストーカーなど、本書では五つの事件が語られている。そのいずれも、表面的にはシンプルだが、その奥には悪意や絶望などの昏い感情が横たわる。それを柴崎たちが暴いていく重い刺激を各篇で味わえる。『撃てない警官』所収の「随監」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞した著者の筆の冴えを満喫できるのだ。それと同時に、この五篇を通じて高野朋美の変化も愉しむことができる。仕事への姿勢に問題があった彼女が刑事として目覚めていく姿も本書を読む魅力のひとつ。注目必須のシリーズだったが、この『伴連れ』でなお見逃せなくなった。

 伊坂幸太郎(いさかこうたろう)『サブマリン』(講談社)は、『チルドレン』から一二年ぶりとなる続篇だ。前作で活躍した家庭裁判所の調査官、陣内(じんない)と武藤(むとう)のコンビが再登場する。前作は連作短篇だったが今回は長篇だ。

 無免許運転で死亡事故を起こした少年の処分に関する調査を担当する武藤は、かつて脅迫状を送って試験観察処分となった少年や、凜とした盲目の老人などとの会話を通じ、事故を起こすまでの過去を知り、彼の罪とそれに対する罰について考える。ときに他者の命を救い、ときに己の命を危険にさらしながら……。

 身勝手な悪意への怒りや、陣内をはじめとする主要人物の他者への思いやり(陣内のそれはきわめて個性的に表現されるのだが)に共感しながら読み進みつつ、歯車が意外なところでかみ合うスリルや、特に陣内のセリフの妙をも堪能できる。長篇というスタイルの新鮮さを含め、“とことん伊坂幸太郎”という大満足の一冊だ。

 早坂吝(はやさかやぶさか)『誰も僕を裁けない』(講談社)は、デビュー作『○○○○○○○○殺人事件』に始まる「援交探偵」上木(かみき)らいちのシリーズ第三弾である。今回らいちは名門企業の社長の自宅(異形の館だ)にメイドとして雇われ、そして事件に遭遇する。その事件の成り立ち(犯人や探偵、あるいは容疑者の思考や行動)は、紛れもなく早坂吝一流のエロミスだ。しかもなお“いわゆる館もの”として、料理の仕方が新鮮である。宣伝文句にある“社会派”という要素も、それなりにきちんと練り込まれている。つまりは読者の期待を裏切らない一冊なのだ。エロミス&館もの&社会派、ということで読者を選ぶかもしれないが、それらを絶妙にブレンドし、さらに大仕掛けを追加したこの一冊、食わず嫌いは損だよ。

新潮社 小説新潮
2016年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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