『本当の夜をさがして』 ポール・ボガード著

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『本当の夜をさがして』 ポール・ボガード著

[レビュアー] 稲泉連(ノンフィクションライター)

 近代的な人工灯の登場以来、都市を照らす光は強まり続けてきた。夜の明るさは豊かさの表れ。だが、一方で私たちには、それによって手放そうとしているものがあるのではないか。本書ではアメリカ人の作家がこのような問題意識のもと、都市における「身近な夜」を探し、その本来の価値を再発見しようと試みる。

 「夜」というテーマで、これほど裾野の広いノンフィクションが描けることに驚く。光に溢(あふ)れるラスベガスから、満天の星の砂漠へ。科学者や医師、疫学者といった専門家、さらには闇の保護活動の現場を取材し、闇への恐怖の意味、生態系の変化、文化的な側面や明るさと犯罪の関係などを著者は調査していく。

 その中で描かれるこの百年の「夜の変貌」が都市住民に突き付けてくるのは、自分の内側から大切な感覚が今まさに失われつつある、という実感だろう。夜は太陽と同じく東から訪れ、地球の半分を包み込んでいる。ならば著者の言う「本当の夜」を忘れることは、本来は知っていたはずの世界の半分を忘れ去ることなのかもしれない。そんな思いにかられた一冊だった。上原直子訳。

 白揚社 2600円

読売新聞
2016年6月19日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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