たった一日だけの新選組隊長がいた!

レビュー

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  • 明治新選組
  • 新選組始末記
  • 新選組血風録

書籍情報:版元ドットコム

たった一日だけの新選組隊長がいた!

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 中村彰彦の『明治新選組』とは、近頃、嬉しい復刊である。

 しかも、初刊本にも、一次文庫にも入っていなかった逸品「五稜郭の夕日」が初収録されているのは、ファンには嬉しい限りであろう。

 新選組といえば、ふるくは子母澤寛の『新選組始末記』(中公文庫)から、定番の司馬遼太郎『新選組血風録』(中公文庫、角川文庫)など、それこそ、枚挙に暇がないほどの作品が刊行されている。

 だが、新選組最後の隊長・相馬主殿(とのも)について書かれたものは、驚くほど少ない。

 表題作は、一九八七年、光文社の第十回エンタテインメント小説大賞を受賞した中篇で、本書は、中村彰彦の処女作品集でもある。

 相馬は、土方歳三の戦死後、最後の新選組隊長となるも、その翌日に榎本武揚が降伏するため、隊長だった期間はたった一日。

 しかしながら、明治三年に新島へと流刑になり、この地で妻を得、明治五年、赦免されて東京へやってくる。そして、ある日、妻を外出させたあと、謎の割腹自殺を遂げるが、動機その他は一切不明である、という。

 作者は、おぼろ気ながら、その動機らしきものを記しているが、決定的なことは書いていない。私自身、考えるに、旧幕時代の何事かに固執して御一新後を生き続ける人々と、世捨て人たらんとする己れとの差異に、抗い難い諦観を感じての死の選択だったのではあるまいか。

 収録作品は皆、何らかの謎を抱えた歴史上の事件や人物や歴史の中に埋もれた人々を、作者の綿密な資料踏査で再現したものばかりで、中でも鎌倉時代を背景とした異色作「後鳥羽院の密使」や、特異な視点から大政奉還を描いた「尾張忍び駕籠」などは、まず、この作者でなければ書けないだろう。

 この他、明治期の今井信郎から龍馬暗殺の謎を逆照射する「近江屋に来た男」や、二つの夕日の対比が抜群の効果を上げている「五稜郭の夕日」など、力作七篇を収録。

 どれも読みごたえ充分。

新潮社 週刊新潮
2016年6月30日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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