『罪の終わり』 東山彰良著

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罪の終わり

『罪の終わり』

著者
東山 彰良 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784103346524
発売日
2016/05/20
価格
1,620円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『罪の終わり』 東山彰良著

[レビュアー] 宮部みゆき(作家)

魂の救済者の物語

 著者が二〇一三年九月に発表し、大ブレイクのきっかけとなった長編『ブラックライダー』の前日譚(たん)。本書の内容を最小限に縮めて紹介するとこうなる。『ブラックライダー』を既読の方にこれ以上の説明は不要だ。しかし、単行本で六百ページ余、キャラの立った人物たちがダイナミックに織りなすこのポスト・カタストロフ小説の金字塔を未読の方には、どうやって本書の魅力と重要性をお伝えしようか。

 西暦二一七三年六月十六日、小惑星「ナイチンゲール」の破片が地球に衝突した。世界的規模の大災害が発生、文明社会の大半が壊滅し、地球は急激に寒冷化してゆく。生き残ったわずかな人々が、飢餓状況のなかで切羽詰まって踏み切った「あること」が、倫理的にはけっして認められないまま、生存のための社会的システムになってしまったその後の北米大陸南部から中西部を主な舞台に、この「あること」がはらむ原罪的な悪のなかで誕生し、世界を再生しようとする「牛腹」の青年ジョアン・プスカドールの物語。これが『ブラックライダー』の(ものすごくかいつまんだ)あらすじだ。ところがこの小説には、黙示録の四騎士の一人で、人類に飢えと荒廃をもたらす「黒騎士」になぞらえられるタイトル由来の人物は登場しない。「あること」の罪に苦しむ衆生を救済した信仰の対象で伝説の人であるとも、「ただの人殺し」だとも評され、逸話は語られるが、作中ではあくまでも過去の人――その人物、ナサニエル・ヘイレンの物語が本書『罪の終わり』なのです。

 蛮勇を奮って、この二作の二人の主人公は同一人物なのだと言いたい。イエスが復活することで真の魂の救済者となったように、ジョアンはナサニエルの復活した姿なのである。ぜひ刊行順に通して読んでください。実は二作のタイトルが(内容に照らせば)逆になっていることの意味も含めて、それで全てが解明され、深い感動に震えることになるはずです。

 ◇ひがしやま・あきら=1968年台湾生まれ。2015年、『流』で直木賞。『ブラックライダー』は新潮文庫。

 新潮社 1500円

読売新聞
2016年6月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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