『太陽の肖像 文集』 奈良原一高著

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太陽の肖像

『太陽の肖像』

著者
奈良原 一高 [著]
出版社
白水社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784560084960
発売日
2016/04/24
価格
3,672円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『太陽の肖像 文集』 奈良原一高著

[レビュアー] 松山巖(評論家・作家)

未来を見つめた半生

 本書は写真家を目指す若者に、或(ある)いは写真は単に過去の記録であり、芸術ではないと思っている方たちにも読んで欲しい。戦後を代表する写真家奈良原一高のエッセイ集だからだ。

 写真家のエッセイ集刊行は珍しいが、本人は長く病床にあり、友人や家族ら六人が六年の歳月をかけ、主な写真作品も収録し、完成した。その理由は文章が読み易(やす)く、格調もあり、彼の半生と写真に対する彼独特の思考がわかるからだろう。

 本書は一九三一年に生まれた奈良原が、敗戦直後の日本を見つめ、進む途(みち)を考え、写真で現実を捉えようとした経緯から始まる。初の個展〈人間の土地〉は桜島の噴火で埋まった黒神村の姿と、長崎の炭鉱島、通称軍艦島で生きる人々の姿を写したが、この写真展は評判を呼び、学生だった彼を一気に写真家にする。さらに和歌山の女子刑務所と、函館の修道僧の生活を撮った〈王国〉も発表。この二作品で彼は極限の世界で生きる人間たちの姿を通し、敗戦後の日本人に生きる意味を強く問いかけたのだ。

 エッセイは自らの写真への問いと自分の人生と交遊とを交互に織り交ぜて進むが、彼は常に移動する。三十歳でヨーロッパを旅し、〈スペイン・偉大なる午後〉を、さらに二年後に写真集〈ヨーロッパ・静止した時間〉を発表。一方は闘牛の激しさと祝祭に沸く人々を、他方では長い歴史に生きるヨーロッパの姿を考えた。

 驚くのは彼が名を知られたにもかかわらず、渡米し、三十九歳にもなってダイアン・アーバスのワークショップに二か月間、多くの素人写真家と共に参加したことだ。彼は常に今の自分に満足せず、新たな途を進もうとする。しかも病で退院後、自らのX線写真をコラージュした写真集を写真の原点を求め六十二歳で発表。

 彼はよく「写真は未来から突然にやって来る」と記すが、本書は常に未来を見つめ、写真を考えた彼の半生と思考がよくわかる。写真は単に過去の記録ではなく未来を写す芸術だと……。

 ◇ならはら・いっこう=1931年、福岡県生まれ。67年刊の『ヨーロッパ・静止した時間』で芸術選奨文部大臣賞。

 白水社 3400円

読売新聞
2016年6月26日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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