小説として読む怪談の快楽いろいろ
[レビュアー] 図書新聞
単に怖い話を聞きたい、その恐怖を体験したいというだけなら、ホラー映画を観ればいいだろう。しかし、怪談として描かれる物語にはそうした「ジャンル」を超える面白さが確実に存在している。本書には明治・大正の文豪である鷗外や芥川から昭和期に活躍した大佛次郎、角田喜久雄まで、全15編の怪異譚が収録されているが、その内容もさることながら、“見た人”がいかに語るのか、作家たちの物語り方を比べてみるのも興味深い。文体まで妖しい雰囲気に包まれた鏡花、何気ない淡々とした荷風の語り、事実に裏付けられたものとして綴られる民俗学者・池田彌三郎の文章など、怪談と呼ぶには趣の異なるものもあるが、そうした理屈を抜きにして、読書でしか味わえない恐怖=悦楽にじっくり浸ってみよう。(5・20刊、二九六頁・本体七二〇円・河出文庫)