『江戸の災害史』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
江戸の災害史 倉地克直 著
[レビュアー] 寒川旭(地震考古学者)
◆藩・民挙げた救済の形
四月に熊本地震が発生した。最近では広島の土砂災害や御嶽山噴火、巨大な津波が押し寄せた東日本大震災など、災害の絶えない日本列島。本書は江戸時代の人々がそれらにどう対処してきたかを詳しく記述する。各章に登場するコラムは災害報道文学・供養碑・鯰(なまず)絵など多彩で、当時の文化の香(かお)りが伝わってくる。
江戸時代になると、領主は百姓たちの保護にも力を注ぎ始め、村・町や家という単位で助け合うようになる。やがて将軍綱吉の頃には、これでもかと巨大災害が襲いかかる。元禄関東地震・宝永地震・富士山噴火と続く過程で、幕府の指揮下に、藩や民間を動員する救済システムが生まれた。国全体で災害に立ち向かう必要が生じたからである。
宝暦・天明期には、政治に対する不満や批判も高まり、浅間山噴火・天明の飢饉(ききん)では、各地で「打ちこわし」が連鎖。公儀は次第に弱体化し、藩や地域の有力者が救済や復興の担い手となる。
幕末の黒船来航前後は地震が多発して、江戸も激しく揺れる。幕府の権威は失墜し、藩や地域が独自の動きを示す中で、新しい救済システムが模索される。
災害に打ちのめされる度に「世直り」を期待して立ち上がった江戸期の人々。何とか乗り越えて、明治へと襷(たすき)をつないだ。現代を生きる私たちに、歴史から学ぶことの大切さを伝える一冊だ。
(中公新書 ・ 929円)
<くらち・かつなお> 1949年生まれ。日本近世史家。著書『江戸文化をよむ』など。
◆もう1冊
北原糸子著『日本災害史』(吉川弘文館)。歴史学・考古学などに基づき、古代から現代までの災害とその復興を叙述。