納豆は日本独自のもの? 高野秀行による「アジア納豆」捜しの旅

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謎のアジア納豆

『謎のアジア納豆』

著者
高野 秀行 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103400714
発売日
2016/04/27
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

納豆は日本独自のもの? 高野秀行による「アジア納豆」捜しの旅

[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)

 日本在住が長い外国人に対して「納豆は食べられる?」と尋ねる人は多い。食べられます、美味しいと答えると好感度は俄然アップする。

 だが、納豆は日本固有の食べ物なのか。誰もがあまり疑問に思わなかったことに高野秀行は気づいてしまった。好んで辺境に行き未確認動物を探したり、世界最危険国と言われる場所にユートピアを発見したり、と独特なスタンスでノンフィクションを書き続ける作家らしい発見だ。

 きっかけは14年前、ミャンマー北部のカチン州で取材中、不慣れなジャングル・ウォークに疲れ果て、小さな村で軽い夕食をご馳走になった時のことだ。出てきたのは白いご飯と生卵とよく糸を引く納豆だった。なぜ納豆があるのか、と疑問に思ったのも束の間、夢中で食べ終わると忘却の彼方に沈んでしまった。

 それ以前にもタイの麻薬王の取材中、その土地の納豆と言われるものを食べ、懐かしい思いをしたことがあった。しかしそれも独立運動や麻薬地帯潜入に較べれば取るに足らないこと。ただアジアのある地域に納豆は存在する、という記憶だけが残った。

 だが2013年にタイのシャン族の言葉を習っていたとき、先生から様々な納豆を教えてもらい驚愕する。それから「アジア納豆」と名付けた食べ物を捜し、タイ、ミャンマー、ネパール、インド、中国、ブータン、ラオスと渡り歩くことになる。

 実は日本の納豆についても研究はあまりされておらず、今でも「秘伝」のような部分が多いのだ。そもそも、なぜ食べられるようになったのか。納豆菌ってどんなもので、どこに存在しているのか。いつから食べられているものか。昔から使われている藁苞(わら づと)の利点は何なのか。調べれば調べるほど疑問は拡大し、納豆のルーツを探る旅は深淵な文化論にまで辿りつき、学術書に匹敵する内容となった。

 納豆って、なんてエキサイティングな食べ物なんだろう。高野の興奮が伝わり、納豆の糸に搦め捕られるように夢中になって読み進む。

 圧巻は何に包んで発酵させるのが一番いいか、という実験である。見ただけでは飽き足らない高野&納豆チームは試行錯誤を繰り返す。アジアだけでなく日本の伝説の納豆作りも一から十まで体験する。岩手の雪納豆はぜひ一度食べてみたい。

 未知の納豆はまだまだありそうだし、アフリカ納豆の存在も確認された。食べて作って納得する。そんな高野秀行の旅はさらに続いていく。

新潮社 週刊新潮
2016年7月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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