江戸時代、無人島に流れ着いた人はどうサバイバルしていたか?

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漂流の島

『漂流の島』

著者
髙橋 大輔 [著]
出版社
草思社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784794222022
発売日
2016/05/19
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

江戸時代、無人島に流れ着いた人はどうサバイバルしていたか?

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 ずっと『ロビンソン漂流記』に夢中だった。小説のモデルとなった実在の船乗りセルカークや、舞台であるクルーソー島について調べた。10年以上をかけてクルーソー島に通いながら、実際にセルカークが住んでいたと思われる住居跡を発掘した。著者はそんな人だ。

 日本にも、江戸時代にたびたび人が流れついた無人島がある。鳥島というその島は、江戸の南方600キロ。火山島で真水がなく、動植物もとぼしい。絶海の孤島なので、船をつくらないと脱出は困難だ。

 クルーソー島を愛する著者は、鳥島のことを知り、当然のようにのめりこむ。幸い、鳥島から奇跡の生還をとげた人たちがいて、彼らはさまざまな記録を残している。アメリカの捕鯨船に拾われたジョン万次郎もそのひとりだが、万次郎よりもずっと早く、自力で島を脱出した男たちに、著者の関心はむかった。

 この本でたびたび記録が参照されている「土佐の長平」は、12年あまりを島で過ごした。数人いた仲間は死んだが、新たな漂着民たちと合流し、驚異の生き残り能力をみせている。漂着当時着ていた衣類は、やがて作る脱出船の帆にするためにとっておく。そして、いつ来るとも知れない大きな流木をひたすら待ち、船の建造をはたしたのだ。

 島を後にするとき長平らは、鍋などの生活道具とともに、島で生きる知恵を書き残した。やがてまたこの島に流れ着くだろうだれかのために。見知らぬだれかを気遣うのは、長平たち自身、先人が残した鍋釜や書き置きに励まされたからである。長平より数十年も前に、「遠州の甚八」は19年もの歳月をこの島で過ごしている。

 現在は、ゆえあって鳥島の調査は頓挫したままである。しかしいつの日か、この本を読んだ人が調査を再開してほしい。著者もまた、江戸時代の漂着民のように、見知らぬだれかに志を託している。

新潮社 週刊新潮
2016年7月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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