皆、自分の穴を埋めるために何かを集める――古書的価値皆無の古書店

レビュー

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無限の本棚

『無限の本棚』

著者
とみさわ昭仁 [著]
出版社
アスペクト
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784757224599
発売日
2016/03/23
価格
1,598円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

皆、自分の穴を埋めるために何かを集める――古書的価値皆無の古書店

[レビュアー] 吉田豪(書評家)

 神保町の特殊古書店『マニタ書房』経営者・とみさわ昭仁氏が、いろんなものを集めては手放してきた蒐集歴や古本について語るこの本を読んで、いろいろと考えさせられた。

 これはサブカル趣味の持ち主である元AKB48スーパー研究生・光宗薫にも話したボクの持論なんだが、ふつうに生きているだけで幸せを感じられる側の人間は余計な趣味を必要としない。蒐集癖にしても同様で、みんな自分の穴を埋めるために何かを集めているんじゃないかと、コレクションでマンション2軒が埋まっているボクは思っているのだ。

「コレクションは最初のうちこそ本当に楽しい。お気に入りの品がひとつ、またひとつと増えていくよろこびは、何物にも代え難い。いつか自慢のコレクションでこの部屋をいっぱいにしてやろうと夢を見る。ところが、(略)現実にコレクションで部屋が埋め尽くされはじめると、快感は苦痛へと変わっていく。(略)コレクションが、生活スペースを圧迫するからだ」

 ボクは独身だからまだいいが、結婚したことで趣味を放棄させられた人間をこれまでに何度も見てきた。しかし、どん底のときに人を救うことができるのも趣味なのである。

 とみさわ氏は仕事が不調になり、妻が亡くなり、「あとには幼い娘だけが残された。ぼくはこれからどうすればいいのだろう。絶望しかない日々が続いた」とき、妻の保険金で古本屋を始めたのだという。かつて杉作J太郎が「男性でアイドルを応援してる人たちって、やっぱり傷ついてる人が多いんですよ」「アイドルのコンサートとか行ったりレコード聴いたりしてる人ってバカに見えるかもしれないけど、普通にスクスク育って普通に中学高校行って就職して、普通に成長してそうなると思うなよっていうね。全部事情があるんだから」と言っていたように、古書的価値皆無な本が並ぶ特殊古書店もバカに見えるだろうけど、そこには事情があるのであった。

新潮社 週刊新潮
2016年7月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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