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なぜか最近熱い、“出版業界の舞台裏”作品
[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)
最近、出版業界もののドラマが熱い。週刊少年漫画誌の現場を描く、黒木華主演のTBS『重版出来!』(原作は松田奈緒子の同名漫画)がこないだ最終回を迎えたと思ったら、それと入れ替わるように、NHKの朝ドラ『とと姉ちゃん』のヒロインが出版社に入社。〈暮しの手帖〉を創刊した大橋鎭子(しずこ)がモデルだけに、このあと業界ドラマ度が高まりそうだ。
当然のことながら、小説でも、出版業界ものはたくさん出ている。たとえば、碧野圭の新刊、『書店ガール5 ラノベとブンガク』。
昨年、第1作が『戦う!書店ガール』のタイトルでドラマ化されたシリーズの文庫書き下ろし最新作だが、今回の主役は書店ガールより編集ボーイ。大手出版社が新設したライトノベル文庫に主舞台を移して、編集部の命運をかけた新人作家売り出しプロジェクトが物語の焦点になる。著者は、作家デビュー以前、ライトノベル編集者として10年余の経験があり、それを反映してか、生々しいネタがてんこ盛り。業界を揺るがしたあんな事件やこんな事件を彷彿とさせるエピソードがどんどん出てくる。小説新人賞の舞台裏を描く出版エンターテインメントとしても楽しい。話は独立しているので、いきなりこの巻から読んでも無問題。
対する北村薫『飲めば都』(新潮文庫)は、『重版出来!』と同じく、新米編集者として出版社で働きはじめた女性が主人公。ただし、こちらの畑は文芸出版。小説と同じくらい酒が好きな編集女子の数々の失敗談(本当にあったらしい話も多数)を盛り込みつつ、小説づくりの現場をほのぼのとユーモラスに描き出す。
それと対照的なトーンで1960年代初めの出版業界(及び草創期のテレビ業界)を活写するのが、小林信彦の自伝的青春小説『夢の砦』(1983年初刊)。ヒッチコックマガジン編集長を務めた前後の体験をもとに、実名多数を交えて当時の空気を鮮やかに甦らせる名作。長く品切だったが、今春、新潮文庫版が(『世界の喜劇人』などとともに)電子書籍化され、気軽に買えるようになっている。