『憲法改正とは何か アメリカ改憲史から考える』 阿川尚之著

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憲法改正とは何か

『憲法改正とは何か』

著者
阿川 尚之 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
社会科学/法律
ISBN
9784106037870
発売日
2016/05/27
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『憲法改正とは何か アメリカ改憲史から考える』 阿川尚之著

[レビュアー] 牧原出(政治学者・東京大教授)

「修正」の歴史に学ぶ

 参議院選挙では、与党など改憲勢力が3分の2以上の議席を得るかどうかが一つの焦点だと言われていた。衆参双方で憲法改正を発議するに足る議席を確保するからである。もちろん日本国憲法は成立後、改正されたことは一度もない。ここに改憲勢力が復古的な憲法草案を出せば、これを阻もうとする護憲勢力は立憲主義の破壊だと攻め立てるだろう。

 そもそも憲法改正とは何かと阿川氏は問いかける。アメリカ合衆国は、建国後連邦憲法を制定してすぐに修正条項を制定し、その後も南北戦争後に南部を再建するために修正を進めた。最高裁判所による合憲・違憲の司法審査によって憲法解釈の変更がなされることもある。

 200年を超える歴史から、阿川氏が引き出すのは、憲法秩序の大切さである。守るべきは憲法を運用する中で蓄積された秩序であり、そのために必要であれば憲法改正もありうるし、解釈変更も行われてよいはずだ。日本の与野党間の憲法改正論議は、憲法を全面的に刷新する改憲側と、一語たりとも変えさせないという護憲側との論争であった。ともにどうすれば憲法秩序を適正に保つかという視点を欠いている。

 アメリカでは憲法制定後1万2千に近い憲法修正案が連邦議会で発議されたが、可決されたのはうち33に過ぎず、州の批准を経て発効したのは27であった。実際に修正が試みられても成功する可能性はきわめて低い。裁判所の違憲判断も、国民が支持しなければ大統領・議会は従わない。アメリカ憲法史を扱う文献は、三権が鋭く対立した上で、解釈変更も含めた憲法修正がなされた事例に焦点をあてがちだが、阿川氏が強調するのは、大統領・議会・裁判所が互譲することで対立を収束させる多数の例である。見ようによっては憲法修正の失敗だが、その蓄積によってアメリカ社会は憲法を尊重してきたのである。「憲法修正」の歴史から現れる叡智(えいち)を、これからの日本も学ぶべきである。

 ◇あがわ・なおゆき=1951年生まれ。同志社大特別客員教授。主な著書に『憲法で読むアメリカ史』など。

 新潮選書 1400円

読売新聞
2016年7月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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