『「非正規労働」を考える』 小池和男著

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「非正規労働」を考える 戦後労働史の視角から

『「非正規労働」を考える 戦後労働史の視角から』

著者
小池和男 [著]
出版社
名古屋大学出版会
ISBN
9784815808389
発売日
2016/05/25
価格
3,456円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『「非正規労働」を考える』 小池和男著

[レビュアー] 柳川範之(経済学者・東京大学教授)

現場レベルで議論展開

 総務省の調査によれば、2015年現在、雇用者のうち3人に1人は、非正規雇用者というのが日本の実態だ。そもそも、働いている人が「正規」と「非正規」とに分かれて呼ばれるというのも、よく考えてみれば不思議なことなのだが、非正規労働にかかわる様々な課題は、日本の抱える大きな問題として、マスコミ等でもしばしば取り上げられている。

 本書は、労働経済学の分野で長年重要な研究をしてきた著者が、この難題に真摯(しんし)に取り組んだ労作である。本書の大きな特徴は、統計データだけに頼るのではなく、職場レベルまで下りた聞き取り実態調査等を基に、議論を展開している点である。本当に現場で何が起きているのか、あるいは起きていたのかを、きちんと把握しながら、あるべき姿を検討するというのが著者のスタイルであり、それが主張に強い説得力を与えている。

 また、サブタイトルに「戦後労働史の視角から」とあるように、戦後の日本の労働実態を丁寧に振り返るとともに、海外での調査資料等も活用しながら、議論を展開している。

 そこから著者は、非正規労働は、ずっと以前から内外で存在しており、なくせばそれで済むという単純な問題ではないという主張を導いていく。非正規労働には、その間にその仕事に向いているかどうかを見極める「人材選別機能」が期待されているという。

 もちろん、その機能が現実に十分に働いているかは別の問題だし、非正規雇用には当然弊害もあると主張する。しかし、どのような機能が期待されているかをきちんと把握しておかないと、弊害を取り除くこともできないというのが、著者のスタンスであろう。

 それらの議論に基づいて、後半では、正規・非正規合わせて技能評価をする「仕事表」の活用等、弊害を取り除き、より良い働き方を実現するための、具体的な提案が行われている。

 ◇こいけ・かずお=1932年生まれ。法政大名誉教授、名古屋大特別教授。著書に『日本産業社会の「神話」』など。

 名古屋大学出版会 3200円

読売新聞
2016年7月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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