『帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略』 A・クレピネヴィッチ、B・ワッツ著

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帝国の参謀

『帝国の参謀』

著者
アンドリュー・クレピネヴィッチ [著]/バリーワッツ [著]
出版社
日経BP
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784822251499
発売日
2016/04/16
価格
3,024円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『帝国の参謀 アンドリュー・マーシャルと米国の軍事戦略』 A・クレピネヴィッチ、B・ワッツ著

[レビュアー] 村田晃嗣(国際政治学者・同志社大教授)

国際政治の本質を問う

 アンドリュー・マーシャルは、40年以上にわたって米国防総省のネットアセスメント室長を務めた伝説的人物であり、「ペンタゴンのヨーダ」とさえ呼ばれた。彼の下で多くの国際政治学者が薫陶を受け、「セイント・アンドリューズ・スクール」と総称された。「一人の人間が防げる愚行には限度がある」という信念から、マーシャルは多くの俊英を育ててきたのである。二人の著者も、この「スクール」のメンバーである。その著者たちが言うように、本書は決してマーシャルの伝記ではなく、戦後アメリカの軍事戦略史ないし軍事思想史になっている。

 さて、ネットアセスメントとは何か。実はこれに明確な定義はなく、国防総省内でも「アンドリュー・マーシャルがやっていること」とみなされてきた。谷口智彦の優れた解説によれば、それは「彼我どちらが強いのか、すべての強弱関係を可能な限り網羅し、凸凹を差し引き相殺して、真の優劣を測ろうとする」ものであり、「差し引き相殺評価」とするよりない。ただし、マーシャルは「我々が関わっているのは診断であって、治療ではない」として、都合のよい答えではなく、本質的な問いを追い求めた。彼は匿名の情熱に支えられ、あくまでも冷徹であり続けた。

 冷戦期には、中央情報局(CIA)などがソ連の経済力を過大評価し軍事支出を過小評価するのに対して、マーシャルは警鐘を発し続けてきた。彼は敵に過大な負荷を強いる戦略を模索した。また、マーシャルは早くも1987年には中国の台頭を予見し、それへの対応を検討してきた。冷戦が終焉(しゅうえん)すると、科学技術が軍事に与える影響にいち早く着目し、「軍事における革命」(RMA)を研究したが、そのためには、急激な変化を嫌う軍の官僚組織と戦わなければならなかった。

 日本の安全保障環境が厳しさを増す中で、われわれも「日本のマーシャル」を育てなければならない。知的環境の整備が急がれる。北川知子訳。

 ◇Andrew Krepinevich=国防政策アナリスト ◇Barry Watts=NPO独立系調査研究機関シニア・フェロー 日経BP社 2800円

読売新聞
2016年7月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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