『足利義稙 戦国に生きた不屈の大将軍』 山田康弘著

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足利義稙 戦国に生きた不屈の大将軍 (中世武士選書)

『足利義稙 戦国に生きた不屈の大将軍 (中世武士選書)』

著者
山田 康弘 [著]
出版社
戎光祥出版
ISBN
9784864031912
発売日
2016/05/30
価格
2,700円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

『足利義稙 戦国に生きた不屈の大将軍』 山田康弘著

[レビュアー] 清水克行(日本史学者・明治大教授)

隠れた英雄、激しい浮沈

 「足利義稙」と聞いて「ああ、あの人ね!」と答えられる人は、歴史好きの中にも、そうはいるまい。歴史教科書の中にも、その名はほとんど見ない。「義稙」と書いて「ヨシタネ」。そのほかに「義材(よしき)」や「義尹(よしただ)」と名乗っていた時期もある、室町幕府第十代将軍である。まずは予備知識のない圧倒的多数の読者のために、そんな彼の履歴を簡単に紹介しよう。

 応仁の乱の敗者を父にもつ彼は、前将軍の急死をうけ、棚ボタ式に将軍の座を得る(25歳)。しかし、将軍になるや外征を繰り返したことで大名たちの反感を生み、クーデターで将軍職を追われる(28歳)。その後、北陸・中国地方を転々とした挙句(あげく)、有力大名大内氏らの協力を得て、再び将軍職に返り咲く(43歳)。ところが、それも束(つか)の間、政権は有力大名間の不協和音で空中分解。自身は四国へ逃走(56歳)。最後は帰京の夢が果たせぬまま、そのまま四国で没する(58歳)。

 日本史を見渡しても、これほど浮沈の激しい生涯を送った人物は、なかなかいないだろう。人生、脱走につぐ脱走。栄達と転落の繰り返し。この間、彼は日本史上で唯一、征夷大将軍に2度就任している。また、暗殺の危機をかいくぐること、生涯に2回。一度は寝室を刺客に襲撃されるも、みずから刀を取って撃退。また一度は、食膳に盛られた毒を口にしてしまい、死線をさまよっている。それもこれも、彼自身の強烈な権力欲が招いた部分も無きにしもあらずなのだが、それも含めて、逆境をものともせぬ反骨心が彼の最大の魅力と言えるだろう。

 本書は、そんな彼の波乱と不屈の生涯を史料に基づいて描いた初の本格的伝記。著者は〈信長や秀吉もいいけれども、こういった「隠れた英雄」から戦国時代を眺めてみるのも一興〉と述べるが、まったく同感。戦国大名の陰に隠れて目立たない室町将軍だが、まだまだこんなにも魅力あふれる人物が眠っている!

 ◇やまだ・やすひろ=1966年生まれ。学習院大などで非常勤講師。著書に『戦国時代の足利将軍』など。

 戎光祥出版 2500円

読売新聞
2016年7月3日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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