ジャングル・ブック映画化で注目、「少年がたくましく生きる名作」3選

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書籍情報:openBD

ジャングル・ブック映画化で注目、「少年がたくましく生きる名作」3選

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 この夏新たな映画化作品が公開されることもあり、ノーベル賞作家キプリング『ジャングル・ブック』の新訳が続々登場している。新潮文庫は数々の海外ミステリ名作の翻訳で知られる田口俊樹の訳だ。

 著者は大英帝国統治下のボンベイ(現ムンバイ)生まれ。1894年に発表した本作は全2巻・全15編の短編集で、その中からインドのジャングルでオオカミに育てられた少年、モウグリが活躍する連作を集めたものが広く読まれている。

 自由な野生児モウグリはもちろん、育ての親となるオオカミ一家や、群れを率いる灰色オオカミのアケイラ、モウグリの後ろ盾となるヒグマのバルーや黒ヒョウのバギーラ、敵対するベンガルトラのシア・カーンなど、誇り高き獣たちも魅力たっぷり。また、鬱蒼とした密林やその奥に潜む廃墟の神殿など、神秘的な風景にも心奪われる。

 モウグリは大人になって人間社会に戻るが、少年期にも一時的に人間の村に戻る。だが、彼と彼の面倒を見た夫婦に対する村の人々の態度は非情である。当時のインド社会が垣間見える場面であるが、その有りようがより具体的に活写されるのが、同じ著者の『少年キム』(三辺律子訳 岩波少年文庫 上下巻)。1901年発表の本作の主人公はイギリス人の孤児、キム。ラホールの街で抜け目なくたくましく生きる彼がチベットからきた僧と出会い、伝説的な〈矢の川〉を探す旅に出る。当時はインドでの覇権を狙うロシアと英国の間で諜報戦が繰り広げられており、キムもイギリス側に協力することになる。さまざまな信条と事情を持つ人々のなかで、己のアイデンティティを見つけていく少年の物語でもあり、大人にとっても読みごたえあり。

 少年がたくましく生きる物語をもう一冊……とくればヴェルヌの『十五少年漂流記』(波多野完治訳 新潮文庫)。15人の少年を乗せた船が嵐に巻き込まれ、無人の岸辺に座礁。彼らは自然のなかで知恵と工夫を凝らし、自分たちの“社会”を築こうとする。こちらもやはり、大人になっても読み返したい不朽の名作だ。

新潮社 週刊新潮
2016年7月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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