脳が壊れた――働きづめでお疲れの皆さんへ

レビュー

8
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脳が壊れた

『脳が壊れた』

著者
鈴木 大介 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784106106736
発売日
2016/06/17
価格
821円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

脳が壊れた――働きづめでお疲れの皆さんへ

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)

 41歳の若さで脳梗塞を発症した著者は、働き者のライターだ。休みなしに原稿を仕上げつづけていないと安心できない。鈴木大介『脳が壊れた』を、働きづめでお疲れのみなさんにおすすめしたい。

 命は助かったが、リハビリは困難をきわめる。「高次脳機能障害」が残ったからだ。視野の片側を無視してしまったり、感情が抑制できなくなったり。非常につらい状態なのに、故障のありかが見えにくい。

 こんな紹介をすると闘病記なのかと思われそうだが、そんな小さなジャンルにはおさまらない。「励まし」や「共感」にもたれかかった凡百の手記より、ずっと志が高い。看護学や医学のはじっこをかすめながら、社会学や文化人類学のほうへ手を伸ばす本だと思う。みごとだ。

 困った症状の描き方、事件の記し方がいちいち笑わせる。サービス精神ともいえるが、そもそも著者自身、自分の身におきた試練を百パーセント味わいつくす心意気なのだろう。脳梗塞に至った理由も自省しているし、実父、義母、妻など家族との関係も洗いざらい打ち明けているが、重たい描写ほどゲラゲラ笑えるように書かれている。

 見どころは、著者の高次脳機能障害と、貧困や非行で社会から弾き出されていく若者の「困った症状」が同じものだと看破した点である。リハビリ次第で社会の戦力になれる人は、脳梗塞患者だけではない。医療や福祉、教育にかかわる人々にも届いてほしい本だ。

新潮社 週刊新潮
2016年7月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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