東京β 更新され続ける都市の物語 速水健朗 著 

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東京β

『東京β』

著者
速水 健朗 [著]
出版社
筑摩書房
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784480864437
発売日
2016/04/25
価格
1,512円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

東京β 更新され続ける都市の物語 速水健朗 著 

[レビュアー] 土佐有明(ライター)

◆フィクションに見る変遷

 東京の街は常に変わり続けてきた。震災や戦火や高度経済成長を経て消失と乱開発を繰り返し、もはやかつての街並みを思い出すことは難しい。だが、東京を舞台にしたフィクションの作品をつぶさに観察してみれば、都市の変遷が見えてくるはずだ。本書は、映画やドラマや漫画や小説において東京がどのように扱われてきたかを探った一冊である。

 例えば、バブル経済前夜の一九八六年に放映されたドラマ『男女7人夏物語』では、登場人物は当時数多く作られた独身者向けマンションに住んでいる。物語の背景には女性の社会進出が進み、多くの若者が都市産業の専門職に従事しているという事情も透けて見えてくる。ドラマの舞台が隅田川にかかる清洲橋周辺なのも、ウオーターフロント地域の開発が急速に進んでいた当時の状況を反映している。著者はそう指摘する。

 日本映画での港湾の描かれ方を比較してみるのも面白い。急速に都市化していく生活環境への批判を織り込んだ『しとやかな獣』、古き良き共同体を離れた家族の苦悩を描いた『家族ゲーム』、開発に失敗した場所としての湾岸がテーマとなる『叫』など。日本映画では東京湾の湾岸地域はネガティヴなイメージと共にしか描かれていないことが分かるのだ。

 それにしても、著者の目のつけどころはユニークだ。例えば、ガメラが東京に上陸してさまざまなインフラを破壊してまわるコースが、映画『南太平洋の若大将』で加山雄三が前田美波里を東京案内に連れて行く観光コースと同じという指摘には驚いた。村上春樹や松任谷由実や岡崎京子など、比較的有名な作り手の作品も取り上げられているが、それらも改めて著者の視点を借りて見返してみたくなる。

 なお、著者は本書と同時期に『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)も上梓(じょうし)している。こちらも併せて読むことをお薦めしたい。

 (筑摩書房 ・ 1512円)

<はやみず・けんろう> 1973年生まれ。ライター・編集者。著書『1995年』など。

◆もう1冊 

 隈研吾・清野由美著『新・都市論TOKYO』(集英社新書)。二十一世紀の東京を象徴する五つの再開発地を概観し、未来の姿を予測。

中日新聞 東京新聞
2016年7月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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