伝説の深夜ラジオ「林パック」 70年代のサブカル史に迫る一冊

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1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代

『1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代』

著者
柳澤 健 [著]
出版社
集英社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784087816105
発売日
2016/05/26
価格
1,728円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

伝説の深夜ラジオ「林パック」 70年代のサブカル史に迫る一冊

[レビュアー] 碓井広義(上智大学文学部新聞学科教授)

 1974年、大学2年生だった。下宿の部屋にテレビはないが、ラジオはあった。深夜放送が好きで、特に野沢那智と白石冬美の「パックインミュージック」(TBS)は欠かしたことがない。放送は金曜の午前1時から3時まで。その後が林美雄の担当する第2部だった。

 70年に始まった「林パック」は奇妙な番組だった。そもそも林美雄というパーソナリティが正体不明だったのだ。アナウンサーであることは知っていたが、テレビで顔を見たことはない。ラジオでも林パック以外で声を聞いたことがなかった。

 内容はもっと不思議だ。音楽は扱うのだが、洋楽はあまりかからない。邦楽も歌謡曲の存在を忘れているようだったし、当時流行していた吉田拓郎やチューリップの曲に遭遇することもなかった。その代わり、荒井由実という無名の女の子の曲がやたらと流れた。独特の声と歌詞。拓郎ともかぐや姫とも異なるその世界観が新鮮だった。「ひこうき雲」も「ベルベット・イースター」も、初めて聴いたのは林パックだ。石川セリの「八月の濡れた砂」や安田南の歌もこの番組で知った。

 映画の話もよくしていた。やはり洋画にはほとんど触れない。邦画も黒澤明や小津安二郎ではなく、藤田敏八(としや)や神代(くましろ)辰巳や曽根中生の作品を語った。ゲストでは原田芳雄が常連だ。こうした偏愛こそが林の真骨頂であり、私たちリスナーの支持もそこにあった。そして74年。突然、林パックは終了してしまう。実は翌年、水曜夜に復活するのだが、林にも内容にも“別モノ”感があり、私自身はその時点で距離を置いた。

 今回、この本を読むことで、分かったことがたくさんある。林美雄とは何者だったのか。なぜ、あんな放送が可能だったのか。また、どうして消滅したのか。同時に、放送史とサブカルチャー史における林美雄の位置と意味も見えてきた。1974年、あなたはどこにいましたか?

新潮社 週刊新潮
2016年7月21日参院選増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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